Dassai Blueが世界のSAKE文化を変える!
「獺祭」オンラインイベントレポート

Written by Saki Kimura

日本国内のみならず、欧米やアジア各国にもその名を轟かせている山口県・旭酒造「獺祭」。アメリカ・ニューヨークに酒蔵を建設するというニュースを聞いて、心待ちにしている現地のファンも多いのではないでしょうか。

アメリカ時間2020年5月21日の夜(日本時間22日AM)、日本の旅行会社HISの主催により、旭酒造の桜井一宏社長が獺祭ニューヨーク進出の実態を語るオンラインイベントがミーティングツール「Zoom」にて開催されました。

なぜ、ニューヨークに? 日本の獺祭との違いは? 新型コロナウイルスの影響は?──桜井社長によって語られたニューヨーク版獺祭「Dassai Blue」プロジェクトの“いま”をレポートします!

「獺祭」ニューヨーク進出、これまでのお話

ニューヨーク進出のきっかけは、世界一の料理大学と謳われる「The Culinary Institute of America(CIA)」からのオファー。レストランシーンでの日本食・SAKEの評価を受け、日本食プログラムやSAKEプログラムを創設する同大学では、学生たちが実際に訪問して学べる酒蔵として「獺祭」の酒蔵の誘致を提案したのです。

製造を行うだけではなく、常時見学を受け付け、テイスティングルーム付きの販売店も設置。HISでの酒蔵見学ツアーも実施が予定されており、現地の人々や観光客が気軽に訪れ、SAKE文化に触れられる施設となることが期待されています。

昨年10月、そのブランド名が「Dassai Blue」に決定したことが発表されました。「Blue」の由来は、「青は藍より出でて藍より青し」ということわざ。日本の獺祭を超えるという目標を掲げての命名です。そう説明しながら、「当然、日本の獺祭はそれ以上の酒を目指します」と桜井社長。

場所はCIAのキャンパスから徒歩5分ほど、ニューヨーク州ハイドパークのスーパーマーケット跡地に建設されます。このエリアにはニューヨークの中心地・マンハッタンに水を供給する水源があり、桜井社長も「水は非常においしい」と太鼓判を押します。

原料米「山田錦」へのこだわりは貫き、現在アーカンソー州の農家と契約し、アメリカ国内での栽培を試みています。しかし、初期段階では日本から輸入した山田錦も使用するそう。「まだまだ農家も手探り状態なので、レベルの高い山田錦が作れるかわからない。日本のお米も使いながら、だんだん米国産が増えていったらいいな、と考えています」。

着実に世界へ根ざす獺祭のグローバル戦略

2019年の旭酒造の海外輸出額は34億円。これは、日本のSAKE輸出額234億円の約15%にあたる金額です。「獺祭は海外ではいちばん知られている銘柄」と胸を張る一方で、桜井社長の目は冷静に世界の現状を見つめています。

「日本にいらっしゃる方は、『日本酒は海外でブームだ』と聞いていらっしゃると思うんですが、アメリカの現地で見ていらっしゃる方からすると、まだそんなにブームじゃありませんよね。日本料理店にはあるけど、現地の普通のお店や、ちょっといい自然食品のスーパーマーケットの棚には置いていない、という経験をしていらっしゃると思います」と、日米双方の参加者に語りかける桜井社長。「私たちもそこが課題だと思っていて、そこをどうにかしようともがいているんです」。

2018年4月には、フレンチの巨匠、故ジョエル・ロブション氏とコラボレーションし、パリにレストラン「Dassaï Joël Robuchon」をオープン。「SAKEは日本食としか飲めない」という固定観念を壊し、まだSAKEに触れたことがない人々へその魅力を届けるための取り組みです。

「現状は、日本文化や日本食に興味があるお客さんにしか飲んでいただけていない。しかし、ここに来ると『ロブションの料理を食べたい』『おいしいフランス料理を食べたい』というお客さんに獺祭に触れていただける、そこが大事なんです」

獺祭が目指すのは、世界各地に“SAKEがある食文化”を築くこと。その取り組みのひとつとして、ニューヨークの酒蔵プロジェクトもあるのです。

伸びる工期、コロナの影響は

当初は2019年の稼働を予定していましたが、州の許認可や工事・設計における“アメリカ的”な商習慣に苦戦。特に、SAKEの酒蔵の建設は現地の設計会社・建築会社にとって初めての試みとなるため、予想していた以上の時間がかかっていると話します。

「アメリカは弁護士やコンサルタントが強い社会ですので、工事の節目で彼らが出てきて、そのハードルを超えないと前に進んでいかないんです」

そんな折の2020年3月、ニューヨーク州は新型コロナウイルスの影響によるロックダウンを実施。旭酒造もまた、工事の中断を余儀なくされました。

「ニューヨークも回復傾向にはありますが、物流や許認可、労働者が集まるといったことがやりにくい状況。ここで無理をしてしまっても絶対にうまくいきませんし、工事費用も上がり、期間も伸びるという結果になってしまう。飲食店も開いていませんから、いま進めても売り先はありません。なのでそこは思い切って、回復するまでは工事を止めていこう、と」

工期は半年から1年ほど延長予定。現在は2022年春からの稼働を目標に計画を進めています。

気になるDassai Blue、参加者からの質問

事前に集まった質問のほか、参加者からコメント欄に投稿された質問にも回答していく桜井社長。気になるアメリカでの流通価格について、「日本の獺祭と同じような値段になるのか」という問いには、「まだわからない。少し難しいかもしれない」と回答。「アメリカは人件費が非常に高い国。ギリギリの線を狙っていくつもりなんですが、(日本の獺祭より)高くなるか同じくらいになるかというのは私たちにもまだわからない部分です」。

続いて、「世界中のマーケティングで工夫している点を教えてください」という質問。世界に展開する中で、それぞれの国から「ヨーロッパではワインみたいなお酒を作った方がよい」「乾燥した地域では味の濃いものが好まれる」「より安価で高級そうに見える商品を」といった意見を受け取ることもあるといいますが、国ごとの好みの違いを理解しつつも、「現地の国ことをあまり考えすぎないようにしている」と桜井社長は語ります。

「ともかく“自分たちがおいしいと思えるお酒”を作っていくというわがままを世界中に通しています。嗜好品ですから、そうしていれば世界中でその味が好きな人もいるんじゃないのかという考え。むしろ、『商品を変えずに説明をきちんとしていく』という部分を大切にしています

そんな桜井社長が「おいしいと思える味」とは、「新鮮なフルーツのようなきれいな香りがパッとあって、口の中で香りと一緒に甘みが広がって、スーッとそれが消えてゆく」。

「でも、みなさんが以前に飲んだ獺祭と、これから飲んでいただく獺祭は違わなくてはならない、以前よりおいしくなくてはいけないと思っています。そうして進化してゆく中で、私が『おいしい』と思う味わいも変わっていくかもしれません


アメリカ・日本在住から延べ100名以上のファンが参加した今回のオンラインイベント。ラストには参加者全員がミュートを解除し、拍手を送りました。「頑張ってください!」「お話、ありがとうございました」「楽しみにしています!」──次々と届く声援に、「こんな大変な時期に、みなさんが世界中から集まってくださって感激しています」と桜井社長は顔を綻ばせました。

コロナ禍をはじめとした困難に直面しつつも、世界のSAKE市場へ新たな息吹を吹き込む冷静な熱意にあふれる旭酒造。2022年に味わえるDassai Blueの一杯を楽しみに待ちましょう!