Book Review:
SAKEにかける熱い思いに酔いしれる一冊
桜井博志『逆境経営――山奥の地酒「獺祭」を世界に届ける逆転発想法』

Written by Yoko

みなさんは「獺祭」というSAKEをご存知ですか。私は「獺祭」という言葉を初めて目にしたとき、これがSAKEの銘柄名であることはもちろん、読み方も知りませんでした。

「獺祭」は「だっさい」と読みます。山口県の山奥にある旭酒造という酒造で造られているSAKEで、SAKE好きで知らない人はいないと言われているほど有名なSAKEです。

最近ではもっぱらワインかビールで、SAKEからは何年も遠ざかっていた私ですが、この本を読んで再びSAKEへの興味がムクムクと湧き、読み終わった時には「獺祭を飲んでみたい!!」と強く感じていました。
なぜか? それは、「獺祭」が著者である旭酒造の社長(当時/現在は会長)、桜井博志さんが幾多もの逆境を乗り越えた先に誕生したSAKEだからです。

以下に、この本の中で特に印象に残ったエピソードを3つ紹介します。


■最初の逆境:父親との確執


旭酒造の三代目桜井社長は、かつて父親から勘当されSAKEから離れた場所に身を置いていた時期がありました。ところが父親の急逝後、経営の傾きかけている酒造を継ぐことになります。
桜井社長は父親との確執を振り返り、父親の存命中に思いのたけや考えを全て話さなかったことを後悔し、人を傷つけることでなければ、できるだけ本音で話すことが大事だと考えるようになります。

桜井社長は製造技術の数値化や四季醸造といった新しい取り組みをするなど、合理的な面がある一方で、人との関わりや縁を大切にするというような、人情に厚い面も持ち合わせています。良い人間関係を築き、人からの信頼を得られなければ、ビジネスは上手くいきません。父親との確執や後悔は、人付き合いにおいて大切なことを、桜井社長に教えてくれたのではないでしょうか。

■最大のピンチ!? 地ビール製造がもたらす悲劇


1990年代後半、酒造りを担う杜氏が高齢化し、蔵人確保が年々難しくなる中、旭酒造は製造部門として社員の雇用を始めました。
通常、冬場に酒造りをする酒造が社員を雇用するということは、夏場にも仕事が必要になります。そこで地ビール製造に参入しますが、認可の条件として、地ビールレストランの経営を義務づけられてしまいます。
サービス業は未知の分野であるため、コンサルタントの進言を受け、「大道芸を見せながら地ビールを売る」レストランをオープンすることになったのですが、3ヵ月で資金繰りができなくなり、撤退に追い込まれてしまうのです。
この地ビールレストラン事業の失敗で、ほぼ年間売上高に匹敵する1億9000万円の損失を出してしまい、さらにこの失敗で旭酒造は危ないと考えた杜氏が、他の酒蔵に移ってしまいました。

この絶体絶命の大ピンチに桜井社長は、「自分で造ろう。そうすれば、今まで杜氏に遠慮して安易に流されていた酒造りも、したいようにできる。挑戦できる!」という驚くべき結論に至るのです。
そして、杜氏制を廃止し、製造経験ゼロの社員4人とともに、自分で酒造りを始めてしまいます。

この一見無鉄砲にも見える決断が、のちに、旭酒造にとって転換点となる大きな決断となったのでした。
自分を信じる力、執念、夢、それとも開き直り……何が桜井社長にこの決断をさせたのかはわかりませんが、最大の逆境をチャンスに変えてしまうバイタリティには、ただただ脱帽です。

■酒造の社長なのに、糖尿病に


糖尿病と診断され、食事制限が必要となった桜井社長は、看護師からアルコールをやめるよう言われます。
普通は健康のことを考え、素直に看護師のアドバイスに従いそうなものですが、桜井社長は「酒をやめるつもりはありません。その上で血糖値をコントロールします」と宣言し、自己流の血糖値コントロール方法を模索します。
そして、大好きなSAKEを諦めることなく、血糖値がコントロールできることを証明してみせたのです。

酒造りだけでなく病気に対しても常識を疑い、独自の方法を模索する姿勢に、強い探究心を感じると同時に、SAKEが大好きで仕方がないという気持ちが伝わってきて、経営社としてだけではなく、人間的な魅力も感じました。

<最後に>


いかがでしたか。私は桜井社長の挑戦する姿や考え方にとてもワクワクし、この人が一生懸命に造ったSAKEを飲んでみたい! と感じました。
何もしなければ、何も挑戦しなければ、失敗や逆境がない代わりに、成功もありません。挑戦し続け、いくつもの失敗、いくつもの逆境を乗り越えたからこそ誕生したのが「獺祭」というSAKEなのです。

「獺祭」は桜井社長の執念と夢のつまった、言わば人生の縮図のような作品です。無色透明で、米と水と麹というシンプルな材料で出来ているSAKEが、とても奥深く、ドラマチックな飲み物だと思えてきませんか? 私はこの本を読んで「獺祭」のファンになりました。

同時に獺祭以外のSAKEにも興味を持ちました。きっとそれぞれにドラマやストーリーがあるはずです。まだ知らないストーリーに会ってみたい、日本人として「日本」という冠のつくSAKEについてもっと知りたい……。この本はSAKEへの興味を再び持つきっかけもくれました。

ぜひこの本を読んでSAKEを飲んでみてください。きっと今までと一味も二味も違う味がすると思いますよ。