コロナ禍におけるSAKEセールスの実態
Sake Sales during COVID-19

Written by Eduardo A Dingler
Translated by Saki Kimura

新型コロナウイルスは疑いようもなく、世界中の私たち一人ひとりになんらかのかたちで影響を与えています。私の働く飲料業界──蒸留酒からワイン、そしてSAKEの造り手を含む──も例外ではありません。世界の多くの国や地域で外出が禁じられ、自粛を要請される現在の状況は、多くのレストランやバーを閉鎖へと追い込み、業界を大規模な経営不振に陥れています。

SAKEのテイクアウトは成功するのか

一方、アメリカのレストランのいくつかは、テイクアウト(持ち帰り・デリバリー)というオプションによって、いまだその扉をお客さんに開き続けています。
カリフォルニア州アルコール飲料規制局、通称ABCが、レストランがテイクアウトでアルコール飲料を販売することができるよう法律を緩和したことは、ひと筋の光だと言えるでしょう。コロナ禍以前のような販売数には当然至っていませんが、これは全米におけるSAKEのセールスの一助になっています。

テイクアウトにおけるSAKE販売の成功例といえば、Michael Minaの率いるサンフランシスコのハイエンド・バー「PABU Izakaya」。
「主に動いているのは、50ドル台のボトル。カップ酒も人気です」そう語るのは、同グループのSAKEディレクターであるStuart Morris。各料理とSAKEのペアリングを提案するリストを作成したり、Stuart自身がお客さまからの電話での問い合わせに対応し、SAKEの造り手の声を伝えたりと、その要因はさまざまです。
ほかにも、サンフランシスコの「Tsunami Panhandle」「居酒屋リンタロウ」、ナパの「HAL YAMASHITA」、バークレーの「Ippuku」なども、好調にテイクアウトのSAKE販売を進めています。

小売店やECサイトの需要は急増

この逆風の中、むしろ売上高が急増しているビジネスも。スーパーマーケットはそのひとつで、SAKEのラインアップは少ないとはいえ、そこで売られているブランドは外出禁止中のストックとして購入されています。

レンガや漆喰でできているような小売店も同様です。カリフォルニア州オークランドにあるDen Sake Breweryは、そのSAKEを取引先のリテーラー──Umami MartMission Bay Wine & CheeseBi-Rite──にプロモーションするため、これまでの倍以上にも当たる努力をしています。


オンラインストア
という手段もあります。SAKEを渇望する飲み手たちを救い続けているのは、外出禁止令の施行から数週間クローズしていたTrue Sakeをはじめ、Tippsy SakeSakaya NYCSipsake.com、Mutual Trading Co(共同貿易)などの通販サイトです。
「自社ブランドのSAKEの売上は、昨年より30%増加しました」、Sake School of Americaの副社長であり、Mutual Trading CoでもSAKEのスペシャリストとして活躍する酒サムライ、上野俊男氏はそう話してくれました(※編注:2020年4月20日現在はオンライン販売を停止中)。

「驚異的な売上を記録しています。再オープンした今週の月曜日から金曜日までの5日間で、1カ月分相当のオーダーを受け取りました。世はまさにクレイジー・タウン!」と語るのは、サンフランシスコの酒販店True SakeのBeau Timkin。「注文は留まることを知らず、パッキング用資材のサプライチェーンに問題が発生しています。SAKEの仕入れは問題ないんですが、段ボール箱の中の緩衝材が不足していて……。いま、飲食業界はつらい思いをしているでしょうね……痛ましいことです」

このように、SAKEに特化したECサイトの売上は順調に推移しており、むしろ需要の高さに追いつくのに苦労しているようです。

3月の売上高は2019年分を大幅に上回りましたし、3月までのYTD(会計年度の初めから該当日まで)の売上は昨年分を超えています」と、メールオーダーサイト「Namazake Paul」を運営するPaul Willenbergは話します。「2019年にたくさんの生酒を仕入れていたので、販売できるか心配していました。ところが、3月1日時点で既存のお客さまからの注文が殺到。彼らの再注文や、紹介による新しい顧客がメーリングリストにどんどん名前を連ねています」

アメリカSAKEビジネス、さまざまな戦略

この不透明な状況下で、飲み手への教育を進めていくことも重要です。酒サムライやVine ConnectionsのSAKEセールスマネージャー・Monica Samuelsを含む多くの専門家は、FaceBook Liveのようなプラットフォームを利用して、SAKE101(※日本語で言う「SAKEのいろは」にあたる基礎知識)を実施しています。

小規模なインポーターやディストリビューターもまた、セールスを維持するために苦闘しています。「友人のワイン会社を通じてDirect To Consumer(消費者への直接販売)を行っています。コロナ禍による損失分に匹敵するとは言えませんが、ローカルのSAKEコミュニティと関わりを持ち続けるためにはよい手段であり、私自身の心の健康にとってもよいことですね」 。ディストリビューター企業Fifth TasteのオーナーであるJesse Pugachはそうコメントを寄せてくれました。

一人ひとりのプレイヤーがSNSで互いを宣伝し合うような取り組みもまた役に立つでしょう。FacebookやInstagram、Twitterのようなプラットフォームにおける投稿やコメント、シェアは、実に大きな効果をもたらします。例えばピザやおばあちゃんのチキンポットパイ、インドカレーなどといった食べ物とSAKEの意外なペアリングを投稿してみる。ワイン好きな友人にSAKEのボトルを送り、ペアリング実験に招待し、オンライン上でそれをシェアしてみる。それを見た人が、次にスーパーマーケットや小売店を訪れたとき、いままで試したことがないSAKEを購入し、オンラインで同じことをやってみよう、と思ってくれるように。


現在のような状況下では、造り手に始まり、インポーター、ディストリビューター、エデュケーター、そして全国のたくさんの飲み手が力を合わせ、SAKE業界の底力を発揮することがとてつもなく重要になります。私自身がすべきことは何か? それは、寿司以外の世界中の料理とのペアリングを提案し続けることです。そうした小さな取り組みによって、SAKEのセールスを確実なものにしてゆける──私は、そう信じています。