これがアメリカのSAKEクラスタ!?
テイスティング・クラブ“BAST” 第1回イベントレポート

Written by Saki Kimura

日本では、SAKEファン同士が集まり、各自が飲みたいSAKEを持ち寄るテイスティング・パーティ(飲み会)が頻繁に行われています。
一方、アメリカはどうでしょう? ワインならともかく、SAKEのテイスティング・クラブなんて聞いたことがない。そもそも、自分の周りにSAKEファンなんているんだろうか? SAKEはまだまだ「レストランで飲む」ものであり、お店で買って家で飲むというステージに立てていない人がほとんどかもしれしれない……。

ないなら、作るしかない! というわけで、カリフォルニア州ベイエリアのSAKEファンのためのコミュニティ「Bay Area Sake Tasting」通称“BAST”を設立。去る2020年1月某日、その第1回となるテイスティング・イベントを開催しました。

会場探しからひと苦労!

テイスティング・イベントを行うにあたってまず必要なのは、会場を見つけること。
日本には便利なレンタルスペースがあふれていますが、アメリカはアルコールに厳しい制約があるため、「アルコールを自由に飲んでよい場所」を見つけるのは至難の技。屋外で飲むことは法律で禁じられていますし、「誰かがお酒を買って、お金を集める」といったことも簡単にはできません。

10月に探し始めてから1カ月以上かけて、なんとか場所を確保。
アルコールにまつわるルールが複雑になるため、初回はトラブルを防ぐために、
 ①少人数での開催
 ②アルコールの扱いに慣れているSAKE業界の人に限る
という条件のもと、6名のメンバーを集めました。

清酒専門評価者の試験に挑戦!

みんなの持ち寄ったSAKEを飲む前に、参加者の一人・米国月桂冠のBrewmaster・河瀬陽亮さんが、レクリエーションを行ってくれました。
酒類総合研究所が認定する清酒専門評価者(日本に129名しかいません)の一人である河瀬さん。この日、河瀬さんが造ったサンプルを使って、その認定試験の一部を体験させてくれるというのです。

挑戦したのは、ABC3つのサンプルを飲み比べて、“仲間はずれ(味が違うもの)”を探すというテスト。「甘み」と「酸味」のサンプルに、それぞれ3回ずつチャレンジします。

「あれ? だんだんわからなくなってきた」
「ちょっと、そのスピットバケツ、私の!」

なんて混乱がありながらも、一同、真剣にテイスティング! 配られた解答用紙に答えを書き込んでいきました。

最後に、河瀬さんが、正解を発表! 全問正解はディストリビューターFifth TasteのJesseと私・Sakiの2名。そのほかのメンバーも、1、2問不正解など、僅差での結果となりました。さすがはSAKE業界で活躍するエースたち!?

偏見なしのブラインド・テイスティング

レクリエーションのあとは、各メンバーが持ち寄ったSAKEをテイスティング。

BASTのテイスティング・イベントには「ブラインドで行う」という鉄則があります。偏見を取り除き、ピュアな気持ちでSAKEの味わいと向き合うためであり、決して銘柄やカテゴリーを当てるクイズをするわけではありません。


トップバッターは、ワイン&SAKEソムリエであり、日本から帰国したばかりのKJ(彼女の日本旅行レポートはこちら)。

「飲みやすいね」
「ヨーグルトみたいな味わいがする」
「アルコール度数が低いんじゃない?」

その正体は、奈良県・今西酒造「みむろ杉 Dio Abita」。アルコール度数は13%と、確かに低めです(SAKEの平均アルコール度数は15〜16%)。

KJは、「醪が“気づかない”くらいゆっくり、少しずつ水を加えることで、アルコール度数13%の原酒を造ることが可能なんですって」と、その興味深い醸造方法について説明してくれました。


続いて、ディストリビューター企業NA Salesで働くAlex。

「軽いね」「ストロベリー・クリームみたい」「ちょっとスパイスっぽさもあるね」といったコメントが飛び交ったかと思えば、「純米吟醸かな?」(河瀬)「違うな、特別純米だ!」(Jesse)といったカテゴリー予想が始まります。クイズじゃないですよ!

その正体は、福島県・笹正宗酒造「特別純米酒 ささまさむね」
「特別純米」と言い当てたJesseが、Alexとハイタッチ。
(精米歩合は60%なので、「純米吟醸」と言った河瀬さんも正解なんですが……笑)


3本目は、SAKE専門店「True Sake」のマネージャー、Meiの持ってきた一本。

「ソトロン……カラメルの匂いですね」と河瀬さん。「熟成酒?」「乳酸っぽさもある」「青リンゴ」「バニラ」など感想にバラつきが見えますが、その正体は?

秋田県・新政酒造「新政 六號 特別純米酒」! 
今から5年ほど前、まだ新政酒造がアメリカに輸出をしていたときのお酒を、なかなか飲むことができずにとっておいたのだそうです。


お次はディストリビューターFifth TasteのJesse。

どっしりとインパクトのある味わいで、「マッシュルーム、バター」「炒ったナッツや醤油のようなフレーバー」といった表現が聞こえました。「お燗にして飲んでみたい」という私のコメントには、「いいね!」とみんなが賛同。

正体は島根県・旭日酒造「十旭日 純米原酒」。醸造年度は平成27(2015)年で、アルコール度数は18度以上19度未満と、コメントにも納得です。

そして私、Sakiのターンでは、3つのミニボトルを少しずつ試してもらうことに。

「……生酒かな?」
「こっちはトフィーみたい」
「これ、ずいぶんユニークな味だね」
と、やや違和感を覚えている様子のメンバー。

実は私が持ってきたのは、昨年秋に訪れた海外ローカル酒造のもの。米アリゾナ州のArizona Sake、カナダ・バンクーバー州のArtisan Sake MakerYK3 Sake Producerのお酒を用意しました。

この3蔵は、いずれも日本人によって立ち上げられた海外ローカル酒造。それぞれの蔵の詳しいエピソードとSAKEの味わいについては、後日公開予定のインタビュー記事の中でご紹介したいと思います!

BASTが掲げる二つの目的

最後にKJが河瀬さんへのサプライズのため、日本の月桂冠で購入したという吟醸酒を振る舞い、大盛り上がり&ほろ酔いで幕を閉じたBASTの第一回テイスティング・パーティ。

興味深かったのは、メンバーが持ってきたSAKEが、いずれもベイエリア周辺では手に入らないものだったこと。さすがはアメリカのSAKE業界で働くメンバーとあって、マニアックなラインアップとなったようです。
また、それぞれのSAKEをテイスティングするたび、KJ、Alex、Jesseの3人が河瀬さんを質問責め! 彼が醸造家であり清酒専門評価者の立場から造りや味わいについて解説すると、感動しきった様子で、「今度、みんなで月桂冠ツアーに行こう!」とはしゃいでいました。

BASTは、
①アメリカのSAKE業界の中で、企業を超えたつながりをつくる
②アメリカのSAKEの“飲み手”視点のネットワークをつくる
という二つの目的を掲げています。

ワイン市場の1%という小さな市場でビジネスをしていると、他社はどうしても「競合」としてライバル関係になりやすく、お互いに情報を隠したり、足を引っ張り合ったりといったネガティブなことが起こりがちです。
わたしたちは、SAKEの市場を拡げるために共に闘う仲間であるはず。アメリカのSAKE市場で活躍する若手たちの絆を少しずつでも深めるものになれば、と考えての取り組みでしたが、その兆候を感じられるようなイベントとなりました。

一方で、先にアメリカのアルコールにまつわる制度の厳しさについて説明したように、「②アメリカのSAKEの“飲み手”視点のネットワークをつくる」という目的を達成するには、まだまだ課題も。
今回集まったメンバーはいずれも業界関係者であり、マニアックな知識を持つ人々だったので、一般的なSAKEファンを巻き込んだイベントなどにも今後取り組めればと思っています。


4月に予定されていた第2回のテイスティング・イベントは新型コロナウイルスに伴うロックダウンの影響によりやむなく延期となってしまいましたが、また次回以降もこちらでレポートしていきたいと思います。
これからどんなメンバーが増えていくのか、どんなSAKEが登場するのか? ぜひ楽しみにお待ちください!