SAKEDELIC!! 〜SAKEと音楽のペアリング〜
Part 2:お手軽デイリー酒編

音楽があれば、SAKEはもっとおいしくなる!
元バンドマンのSAKE好きボーイTKCが、あのお酒にぴったりの音楽ペアリングを提案。
第2弾は、スーパーやコンビニで買えるデイリー酒のペアリング4セットをお届けします!

Written by TKC

Ⅰ. 変わっていく人々、変わらない酒 ─ 剣菱 × 「Champagne Supernova」by Oasis

兵庫県の剣菱酒造は「止まった時計でいろ」を社訓に、変わらないおいしさを追求している蔵元さん。先日のオンラインイベント「Sake Future Summit」 でも、社長の白樫政孝さんが「今後お酒の趣向が変わっていったとしたら味は変えるのか?」という質問に「絶対に味は変えない」と即答していたほど、伝統の味を守り続けることにこだわっている。
かっこいい! ロゴもかっこいい! 全部かっこいい!
最もリーズナブルな「剣菱」は、熟成やブレンドなどの工程を経て「どんな料理と合わせても70点以上がとれる酒」という剣菱の酒造りを体現したようなオールラウンダーな一本。

これにペアリングしたいアーティストは、2009年の解散後も再結成を望む声が止まないイギリスの伝説的ロックバンド、Oasis
イントロの波の音や美しいギターの音、フワフワと心地よい浮遊感を味わえる「Champagne Supernova」は、最大のセールスを記録した二枚目のアルバム「Morning Glory」の最後を飾る一曲。「How many special people change?(どれだけ多くの特別な人が変わっていくんだ?)」で始まる叙情的な歌詞は、大人に変化していくことへの反抗、変わりゆく人々への切なさ、はたまたラブソングではないかと、聴いた人によって解釈が分かれ、作曲者であるNoel自身が「気分が違うと違う意味になる曲」であると発言している。

その日のコンディションによって味わいと聴こえ方が異なるこの組み合わせは、自分の立ち位置を確認させてくれる羅針盤のよう。
剣菱の掲げる「止まった時計」の針が指し示す時間が永遠に変わらなくても、その時刻の意味合いは人それぞれ違うだろう。
変わらないSAKE、変わらない音楽。しかし、人々は変わり続ける。
帰宅後、いつも通りの音楽をかけ、いつものSAKEを用意。いつも聴いてる曲なのに、今夜は少し悲しい曲に聴こえる。いつも飲んでる大好きなSAKEのはずなのに今日はなんだか進まないな。もしかしてちょっと疲れてるかも。今日は早く寝よう。そんな気づきを与えてくれる、寄り添うような優しさにあふれたペアリングだ。

Ⅱ. 雪国の魔法 ─ 高清水 上撰 × 「Magic」by Coldplay

「高清水」でおなじみ秋田酒類製造は、秋田県で随一の生産量を誇る蔵元さん。オーソドックスなおいしさの定番商品に加え、加温貯蔵することで長期熟成のような味わいを作り出した「加温熟成解脱酒」など、新たな味わいへの挑戦も続けている。
上撰は秋田では日本酒といえばこれ! というほどの秋田のソウルSAKE。秋田の酒というと「新政」や「山本」に代表されるフルーティーな味わいをイメージするファンも多いかもしれないが、このお酒はどっしり感とシャープなキレをあわせ持つ通好みの味わい。もちろん秋田の料理にもベストマッチ! きりたんぽ、いぶりがっこ、ハタハタ寿司など、香りや旨味の強い料理と一緒に楽しむのがおすすめだ。

これにペアリングしたいアーティストは、世界的ポップロックバンド、Coldplay。明るくビビットな曲調を特徴としているが、「Magic」が収録されている「Ghost Stories」は、フロントマンであるクリスの10年に渡る結婚生活の終焉を背景に作られており、全体的に重くダークな印象の曲が多く、評価を二分した異色作だ。「I call it magic, I call it true(魔法でもあり、真実でもある)」という一節は、落ち着いた曲調に反して、魔法のような時間も現実も肯定しようという前向きな姿勢を感じる。この曲が肌に合えば、ぜひアルバムで聴いてほしい。深い海の底に沈んでいくような感覚に包まれる一枚だ。

夜の静けさを一層深くしてくれるペアリング。なんだか眠れない夜、熱々にしたワンカップを持って雪の降る外の世界へ。イヤホンを取り出し、この曲をかけながら熱燗を一口。いつもより雪が白く輝いて見えるのは、魔法にかけられたからなのか、それとも、それが真実の姿なのか。

Ⅲ. ドリーミー・チルタイム ─ 白鶴 まる × 「Numb」by Men I Trust

兵庫県・白鶴酒造の「まる」は、白麹造りを含む6種類ものSAKEを用いたブレンド酒。白麹のSAKEというと最近できた製法のように思われるかもしれないがが、なんと「まる」が誕生したのは1984年! 飲みやすく飲み飽きしない、どんな料理にもマッチするお酒だ。

Men I Trustは気だるさと浮遊感を持ち味とするカナダのドリームポップバンド。ボーカリストのEmmaが「散歩をしたり音楽のことを考える以外何もすることがない」と語るほど自然の豊かなケベック州で活動しており、ルーツを感じさせない自由なサウンドを作り出している。「Numb」はサードアルバム「Oncle Jazz」の中に収録されており、聴くといつの間にか体の力が抜けている不思議な曲だ。

肩肘はらず、ダラダラ過ごしたくなるチルなペアリング。お昼時、この曲をかけ、ランチを作りながら、ちょっと温めてみようかな、こんなグラスで合わせてみよう……とキッチンドリンク。料理ができたころには既にほろ酔い。でも、ついついまた注いでしまう。どれくらい飲んだのか、どれくらい時間が経ったのかもわからない、まどろみの中に落ちていくような組み合わせだ。

Ⅳ. ポップの向こう側に見えるもの ─ 月桂冠 THE SHOT 「華やぐドライ」大吟醸 × 「The Spirit of Radio」by RUSH

現在のSAKE造りに欠かせない数々の技術を生み出してきた京都・伏見の月桂冠は、ノンアルコールSAKEや糖質ゼロなど、時代に合わせた革新的な商品をプロデュースし続けている。カラフルでポップな見た目がかわいい「THE SHOT」シリーズは「好きを楽しむ始まりに」をコンセプトにしており、黒い「華やぐドライ」はフルーティかつ後味スッキリな大吟醸酒。ちょっとSAKE飲みたいなぁ、という時に嬉しい180mlサイズで、絶妙な飲み口の大きさが香りを引き立ててくれる。

これにペアリングしたいアーティストはカナダのバンドRUSH。超絶技巧や1曲10分を超えるような大作主義を特徴とするプログレッシブロックバンドであり、「西暦2112年」など、20分を超えるようなぶっとんだ曲も多い。「Spirit of Radio」は、数々のヒット曲がラジオから生まれた70〜80年代において「ラジオでかけてもらうにはもっと短い曲を作る必要がある」というレーベルの強い意向によって作られた。いわゆる商業化ではあるが、5分の中にRUSHらしさとポップさを煮詰めたような八方良しな一曲。一方で、歌詞は耳触りのよいポップソングを量産する商業音楽を皮肉ったものになっている。

取っつきやすさの奥に大人の余裕を感じさせる組み合わせ。なんかチャラいやつだな〜、と思ってたけど、色々話してるうちに、こいつめちゃくちゃしっかりしとるやん、ってなるやつ。流行りの音楽、流行りの酒。好きな音楽、好きな酒。流行と好みが一致することだって、そうじゃないことだってたくさんある。自分にとっての「The Spirit of SAKE」を探したくなるようなペアリングだ。