Written by Keita Okubo
日本を代表するお酒=SAKE(日本酒)、日本を代表するグルメのひとつ=ラーメン。しかし、日本国内ではこの2つを同時に楽しむという文化はほとんど見られません。同じ麺類の「蕎麦」はSAKEと一緒に楽しむというのに。
(蕎麦の場合はコースのような楽しみ方ですが)
今回は、日本でも珍しい「SAKEがすごいラーメン店」である5510さんに行ってきました。
SakeTips!で寄稿している同士なので反則? と思いつつ、あまりに美味しかったので紹介します。
拉麺5510さんの「SAKE」と「ラーメン」の考察はこちら。
これまで、僕の人生の中で、「そのままラーメン屋で飲む」という発想はありませんでした。
ラーメンは「飲んだあとのもの」。もしラーメン屋で飲むとしても「ビール」。
その考えを変えてくれたのが「拉麺5510」です。
東京都江東区大島5-5-10
都営新宿線大島駅徒歩5分ほど
Twitter: @ramen5510
夜の営業にお伺いしました。
見るからに「町のラーメン屋さん」(※)といった佇まい。人気店のようで、お客さんがひっきりなしに訪れます。
※日本、特に東京では、街のあちこちにラーメン店があり、それほど有名でなくとも「地元の人の食堂」のような役割を果たしています。
店内はL字カウンターで10席ほど。常連さんが多いようで「今日はどれにしようかな……」「今日はこのラーメンがおすすめですよ」といったスムーズなやりとりが行われています。
店主の大滝さんです。絶対においしいものを作りそうな雰囲気を醸しています。
ほかのお客さんは普通に食事をしているので、最初は「本当にSAKEが飲めるのか?」と少し不安を覚えます。「SAKEを……」と聞いてみると、専用メニューを出してくれました。
すごいラインアップです! 地酒専門の居酒屋さんレベルです!いや、専門店でも入手できないようなものもゴロゴロ見られます。
ちなみに金額は全銘柄同じ。2サイズから選んで注文できます(グラス750円、ハーフ350円)。
いったい、どうしてこんなにたくさんお酒があるのだろうかと聞いてみたところ。
「ただ、SAKEを集めるのが好きなんですよ。いつのまにかこんなになってしまって……」と大滝さん。飄々とした、独特の居心地のよさがあります。
1杯目はメニューに「困ったらこれ!」という書かれていた「朝日鷹」。気軽な感じがしますが、これ、プレミア酒で知られる「十四代」の高木酒造(山形県)が醸す地元向けのお酒……そうそうお目にかかれないすごいお酒です。
おつまみはラーメンのトッピングの定番「チャーシュー」「煮卵」「メンマ」のセット。
SAKEの最高峰である高木酒造の地元限定銘柄を、ラーメン屋のカウンターで、メンマと一緒に味わう。なんだろう、背徳感も相まってたまりません。
味はもちろん、うまい。メンマのほどよいオイル具合が不思議と朝日鷹のリッチなコクと合います。
おかわりは「楽器政宗」。
「自然郷」で知られる大木代吉本店(福島県)の、こちらも地元向け限定銘柄。
あれ、これ今なかなか入手できないって聞いたことがあるのに……。なぜラーメン屋さんに。
上品な香りと広がる旨み、うん、煮卵と最高に合います。
お酒はカウンターごしに、グラスとか瓶とかの隙間を通して注いでもらえます。なのにこぼれるギリギリのベストな具合に。カウンターの上のグラスとか片付ければいいのに。
2杯いただいたところで、本題。そもそも「SAKE」は「ラーメン」に合うのか。
単刀直入に聞いてみると「……SAKEが好きなら合うと思うでしょう」とのこと。つまり……ラーメンにはSAKEがベストというわけではない?
「はい、お酒によって“合う”というものがある、といったくらいです」
なんと、決して「SAKE×ラーメンのペアリング推し」なわけではなかった!! こんなにたくさん揃えているのに!
驚いていると、隣でラーメンをすすっていたお客さんがひとこと
「オールドパー、ストレートで」
……ウイスキーもあるのか。
「ああ、相性でいうとウイスキーはなんでも合いますよ」
と、大滝さん。鼻歌交じりで手早くラーメンを作ります。
ちなみに大滝さんの着ているTシャツは拉麺5510のオリジナル。多色展開しており、こちらも購入可能だそう。
店内の一角を見ると、こちらもSAKE「射美」(杉原酒造@岐阜県)の前掛があり、下は冷蔵庫。上はウイスキー。隣のお客さんはラーメンをひとくちすすり、それを追いかけるようにウイスキーをあおります。なんなんだここは。
混乱を断ち切るように、SAKEを追加。会津娘(高橋庄作酒造店@福島県)の「無為信」。農薬や化学肥料を使わない地元の米だけで作った純米酒。
2年熟成ですね。美味しいです、めちゃくちゃ美味しい。
ここまでゆるゆるとSAKEを飲んでいて、ふと気付きました。
このお店、全然ギラついていない。
SAKEにこだわる飲食店の人って、多かれ少なかれ「ギラギラ」している印象があります。「SAKEはこうあるべき!」「このこだわりすごいだろう!」「どうだ!!」みたいな。
その道のプロのこだわりに触れることが本当に好きなのですが、毎回プロの技術とバチバチしたいかといえばそうでもないもの。たまには力を抜いて、ゆるりと飲みたいものです。
そういえば、日本人が日本酒を飲む時、この「楽さ」というのが抜けてしまうことが多いのかもしれません。
しかし、拉麺5510の大滝さんは、なんにもギラついていない。むしろ、質問しても飄々と受け流すところがある。すばらしい銘酒が揃ってるのに、別にアピールしない。
最高級の味を、自由に、適当に楽しめる「軽さ」は、SAKE専門店にはできないことかもしれません。
「だって、僕普段は酎ハイ飲んでますから」(大滝さん)
キンミヤ派。
拉麺5510には、魚介系、鶏ベース、その日の特別メニューといくつかの味があります。では、どのラーメンとどのお酒が、もっともベストなのでしょう。
そう聞いてみると、初めて大滝さんが思案顔に。
「……麺はそもそもSAKEとの相性がいい。スープは動物ではなく魚介。ダシを楽しむものはSAKEと相性がいいです。そしてお酒は香りが立ち過ぎず、またアルコール感が出ていないものですと寄り添います」
理論派でした。
SAKEは「夢想」(大洋酒造@新潟県)。メニューにないものを出してくれました。
そしてラーメンは魚ベースの「しろたまり」(750円)。
……めちゃくちゃ合います。
黄金色のスープは香り豊かで、見た目よりもしっかりとコクがあります。長い長い余韻を、やや酸味が効いたSAKEがいい具合に「味変」してくれます。
細麺も小麦の旨味をプラスし、これまた合う。
美味しいです!
ラーメン屋さんで飲む、しかもSAKEを飲む。
これは「あり」です。
しかし地酒専門店のノリをそのままラーメンでするというのではなく、
あくまで「ラーメン屋」らしさがあってのこと。
チャーシューやメンマを摘んだり、麺をすすったりしながら、やけにいいSAKEを飲む。普通の地酒屋さんなら恐れ多い気分になるけれど、ラーメン屋さんなら「好きに楽しんでいい」と思える。
日本のSAKE専門店にハードルを感じる人は、ここ拉麺5510からチャレンジしては、と思えるほどです。
すごいお酒とおいしいラーメンを、絶妙なゆるさで楽しませてくれる。
拉麺5510、すごいです。(ちなみに隣のウイスキーを頼んだ方は、ラフロイグを追加オーダーしてました。この合わせ方も気になります)
ごちそうさまでした。