Sake 101
Ep.6「燗にできるSAKEとできないSAKEがあるの?

SAKEビギナーのAyaとTomokoがSAKEを楽しむためのノウハウを、利酒師Sakiから伝授してもらう『SAKE 101』第6回。


前回、悪酔い・二日酔いをしないSAKEの飲み方の一つとして「SAKEを温めて飲む」ことを学んだAyaとTomoko。
「熱燗パーティーだ!」と意気込んだものの、いざ始めようとするといろんな疑問が湧いてきて……。

Edited by TOMOKO



熱燗パーティーだ~!! フォ~~!!



……。

 

Ayaさん、無視しないでくださいよ~(涙)

 

……。あ、ごめん! 熱燗について考えはじめたら、いろいろな悩みが出てきちゃって。



どうしたんですか?



はい! だからこうして今日、熱燗パーティーをするんじゃないですか~。


う~ん。そうなんだけど……。
Tomokoさんは「熱燗パーティー」って言ってるけど、「燗酒」には「熱燗」以外にもいろいろ種類があるみたいで……。
どんなSAKEをどんなふうに準備したらいいか悩んじゃって。

 

え! 「燗酒」=「熱燗」じゃないんですか?

 


調べてみたら、SAKEは温度によって呼び方が変わるらしくて、「熱燗」っていうのは50℃くらいの温度帯のことを言うんだって。
熱燗以外にも「ぬる燗」や「人肌燗」っていうのもあるみたいだよ。


え~!! そんな種類が……?
ただおいしいSAKEを楽しみたかっただけなのに、なんだかわたしまで頭が痛くなってきちゃった……。


しかも、どのSAKEを「熱燗」にすべきで、どのSAKEを「ぬる燗」にすべきかもわからないよね……。
そもそも、どのSAKEも燗酒にしてしまってもいいのかな~? うーん。



Ayaさん、悩んじゃってるね~(笑)



Sakiさん!!



そんなに悩まず、とりあえずどんなSAKEでも温めちゃえばいいんだって~。



そんな大雑把な……(涙)


Sakiさんもこう言ってることだし、難しく考えるのはやめましょう!
さ、そうと決まれば早く飲みましょうよ~。


Tomokoさんは早く飲みたいだけでしょ!
Sakiさんはそう言いますけど、燗酒向きのSAKEの見分け方が絶対にあると思うんです!


実はわたしも早く飲みたいんだけど……(笑)。
いちばん簡単な見分け方は、冷やしたり、常温で飲んでみたりしたときに、『おいしくない』とか『好みじゃない』と感じたら温めてみることかな。



え! そんな簡単なことなんですか?


そうだよ。
温度が低い状態ではおいしさが隠れてしまっているSAKEというのがあって、そういうものは少し温めてみるだけで、驚くほどおいしく感じられることがあるんだよ。



じゃあ、常温や冷たい温度でおいしいSAKEは燗酒には向かないってことですか?


ううん、一括りにそうとは言えないよ。だけど、燗にしておいしくなるSAKEとおいしくなくなるSAKEがあるのも事実。だから、わたしはどんなSAKEも一度は燗酒にして飲んでみて、自分の舌で確かめることをおすすめしているよ。


なるほど、なんでも温めちゃえばいいなんていい加減だなぁと思っちゃいましたけど、そういうことだったんですね……。
でもSAKEには吟醸酒や純米酒という種類がありますよね。その種類は燗酒に向いてるかどうかの指標にはならないんですか?


Ayaさん、良い質問だね。
少し前まで、SAKE飲みのあいだでは「燗向きのSAKEとは普通酒や本醸造酒、純米酒といった精米歩合の高い(お米をあまり削っていない)SAKEであり、吟醸趣や大吟醸酒といった精米歩合の低い(お米をたくさん削った)SAKEは燗向きではない」という常識のようなものがあったんだよ。


確かに、学生時代にチェーンの居酒屋さんで飲んだアツアツの燗酒って、リーズナブルだった気がするなぁ……。どうしてですか?


これにはいろいろな理由があるんだけど……。
まず、戦後の米不足で「三倍増醸清酒」というSAKEが流行ったときに、安価なSAKEを温めることで味をごまかすという方法があったんだ。このせいで、「燗に向いているのはリーズナブルなSAKE。高級なSAKEを温めて飲むのはもったいない」という考え方が定着してしまった部分はあると思う。



三倍増醸清酒……?


これについてはまた今度詳しく話すね。
あと、「吟醸」のつくSAKEは華やかな香りのあるSAKEが多いんだけど、温めるとその香りのバランスが崩れてしまう。「香りのバランスが崩れる=おいしくなくなる」ことから、吟醸酒や大吟醸酒は燗向きでないという認識になったところもあるだろうね。



たしかに、温めるとアルコールのにおいがきつくなるイメージがあります。


だけど実際は、燗にしたほうが冷酒のときよりおいしくなる大吟醸酒もあれば、温めるよりも冷やしたほうがおいしい普通酒もあるんだよ。



思い込みで燗向きかどうか判断してたら、よりおいしい飲み方に出会えないかもしれないですね!


そうだね! どんなSAKEも一度は燗にすることをおすすめするのは、その基準がカテゴライズや精米歩合といった外側の情報からは見えにくいからなんだ。
だけど、SAKEを飲み慣れてくると、口にしただけで「燗にしたらおいしそうだな」なんてわかるようになるよ。



お~。わたしたちもその領域に達したい~。



慣れるまでは大吟醸でもスパークリングでも濁り酒でも燗にしてみるとおもしろい発見があるかもしれないよ。ぜひ試してみて。



はい~!!



あっ、でも燗酒ってそもそも何度にするのがいいんですか?


燗酒にするとき適温はSAKEによって異なるよ。SAKEには「甘味」「酸味」「苦味・渋味」「辛味」といった味わいの要素があって、その要素が温度が上がると強くなったり、弱くなったりするんだ。厳密に言うと、酸味の度合いはずっと変わらないんだけど、温度によって甘味が強くなったり、苦味が弱くなったりするのにあわせて、酸味の感じられ方も変わるんだよね。



わ~。不思議ですね~。


SAKEによってその味わいのバランスは違うから、最もおいしいバランスになる温度というのもやはり違うんだけど……。
そうだな……。例えば、SAKEの「旨味」ともいえる「甘味」は温度が上がるとともにどんどん強くなってゆき、35℃で最も強くなり、あとは徐々に下がっていくの。



35℃の燗酒がいちばん甘味が強く感じられるということですね。


「甘味が強く感じられる=35℃が最もおいしい」という意味ではないけど、燗をするうえである程度の目安にはなるんじゃないかな。たとえば、もっと甘味がほしいなと思ったSAKEを35℃くらいまで温めてみると、ほっこりとしたお米の旨味がふくらむことは多いんだよね。ちなみに35℃くらいの「人肌」の温度の燗酒を「人肌燗」というんだよ。



なるほど。確かにわたしの体温は36℃くらいかも。「人肌」の温度だから「人肌燗」なんですね!


そうだよ。
他にも、40〜45℃は「ぬる燗」、45〜50℃は「上燗」、50〜55℃を「熱燗」、それ以上を「飛び切り燗」と呼ぶんだ。



それぞれの温度帯の中から好みの味わいを探すのも楽しそう!



SAKEの温め方に決まりはあるんですか? なるべく簡単な方法がいいんですけど……。


そうだな~。
電子レンジがいちばん手軽ではあるんだけど、温度ムラができたり、温めすぎてしまったりしておいしくしづらいんだよね~。



おいしくなる方法がいいですっ!!



(おいしさに貪欲……笑)



じゃあ、やっぱり「湯燗」がおすすめかな。



「湯燗」??



チョコレートを湯煎するときみたいに、お湯を張った容器の中に、SAKEを入れた容器を入れて、じわじわ温めるという方法だよ。



えっ、めんどくさ(ゴニョゴニョ)……。


誰だ~? めんどくさいって言ったのは~(ギロリ)!
たしかに面倒に感じられるかもしれないけど、わたしは自分で燗をするときは、①電気ケトルでお湯を沸かし、②大きめのどんぶりやお椀にそのお湯を注ぎ、③SAKEを入れたカップをその中に浸ける、という方法で温めてるよ。



めんどくさがりなTomokoさんでもできそう!


そうだね(笑)。本当は鍋や専用の道具で丁寧に温めるほうがいいんだけど……。
どうしてもレンジ燗をしたい場合は、所定時間の半分温めてから、お箸などでSAKEをかき混ぜ、もう半分の時間温めるとムラができにくくなるよ。



は~い!!


温め方もマスターしたから、あとは実際に飲んでみるだけだね!
異なる温度帯で飲み比べしたいときは熱燗まで温めて、その後冷めていく過程の味を楽しんだらいいですよね。


NO~~!! それは違うよ。
燗をすることで香りが飛んでいったり、味わいのバランスが変わったりするので、温度だけを戻してももとの状態にはならないんだ。


そうなんですね。
じゃあ、それぞれの温度帯での味わいを楽しむためには、低い温度から徐々に温めていくほうがいいんですね。


そのとおり。ちなみに一度燗したSAKEを冷ますことには「燗冷まし」という正式な呼び方があるよ。何もしないまま常温で飲むよりも、燗冷ましをしたほうがおいしくなるSAKEというのもあるんだ。これは、以前Drinker‘s NoteでYokoさんが発見していたのでぜひ読んでみて。


Yokoさん、燗冷ましを知らないのに発見したなんてすごい~。
Drinker‘s Noteもチェックしなきゃ!


これで二人の疑問は無事解決かな?
じゃあ、「燗酒パーティー」始めようか!



やった~!!

●○まとめ○●

・冷やしたり、常温で飲んでみて『おいしくない』とか『好みじゃない』と感じたらSAKEを温めてみよう。

・どんなSAKEも一度燗にしてみて味わいの変化を楽しんでみよう。

・おいしい温度帯もSAKEによって異なるが、甘味が最も開く35℃を目安にしてみよう。