酒詩
「獺祭 磨き三割九分」
(山口県・旭酒造)

Written by Ryosuke


なんて美しい夕焼けだろ
この目の他にも捉えたんだろか
山の輪郭とわたしが重なり そんな
心地よい風があったのだろうか

(なんて)

自転車で駆ける町
坂の多い町
今日もりんごは軒先に飾られて
生徒たちは定刻に走り

(なんて美しい)

朝からテキストが焼ける ペンを投げて
まっさらな机に向かって
さてどうしようと言ってる ああ
机自体も焼けて消えていく

(美しい夕焼け)

チャイムが鳴り扉が開き
喧騒 噴飯 緩やかに世界は 無駄か
向こう席のあの子の果物 黄色の
体育館の となりには理科室

(夕焼けだろう)

もう見ることができない
夕焼けの色合いは金

ぬくい
いたい
いたい
いたい
ずるい
あつい
さむい
さむい
きつい
―あかるい
さむい
きつい
あつい
いたい
ぬくい
ぬくい
さむい
さむい
―きえてゆく

動く時間も止まる時間も
ただ進んでいく 片足で立ち目を瞑る
とどまったら死ぬ 日々は繰り返しで
糸の擦り切れたカイトを 視線で操るような

(しかしなんて美しい夕焼けだったろう!)

微粒子状になっていくものたち
塵になっていくわたしたち
出会うことはなく
かと言って消えることもなく なく

変わってないよ何もかも 大丈夫

なんて美しい夕焼けだろ
この目の他にも捉えたんだろか
山の輪郭とわたしが重なる そんな
心地よい風があったのだろ

百年後くらいに生きるひとは
そう思うのだろうか 口笛を吹かせて
まだ芽吹かぬ春を花束にして
届くどこかの目に きっと目に