KJの日本旅行記
Part 3:WSETツアー 山口から広島、ちょこっと大阪&京都編

Written by KJ Sakura
Translated by Saki Kimura

(Part2はこちら)

翌日は山口県へと迂回し、世界的に有名な「獺祭」の旭酒造を訪ねました。メロンやアニス、ストーンフルーツを感じさせる上品な口あたりが特長の「獺祭 磨き三割九分」は、私をSAKE業界へと引きずり込んだゲートウェイ・ドラッグ。2014年ごろ、ニューヨークのジャパン・ソサエティーで開催されたジョン・ゴントナー氏のテイスティングイベントで初めて飲みましたが、自分がSAKEの道へ進むきっかけとなった酒造へ足を踏み入れることができるなんて、まるで夢のようです。 SAKE造りにおける機械化、精密さ、清潔性、ブランディングの極限を体現する旭酒造は、大吟醸酒のみを製造し、精米歩合別のラインアップをそろえています。

醸造所は複数のフロアで構成されており、ウィリー・ウォンカの工場のような雰囲気に包まれていました(チョコレートの川と食いしん坊な子どもたちは見えなかったけど……)。足洗い器や空気を吹き付けるポッドだらけの壁など、部屋ごとに異なるあらゆる方法で消毒されるものだから、それぞれの部屋に足を踏み入れるたびに大興奮。質問したいことはたくさんありましたが、ツアー中はカメラの大群に尾行されていたので、なんとなく黙ってしまいました。

この日入手した最新情報のひとつは、ニューヨーク・ハイドパークにある世界一の料理学校「The Culinary Institute of America」とのコラボレーション! 旭酒造は現在、米国産のお米と日本産の山田錦を使った新ブランド「Dassai Blue」をニューヨークに立ち上げている真っ最中。「青は藍より出でて藍より青し」ということわざから来ているというこの名称は、この新ブランドは私たちが親しみ愛飲している現在の獺祭以上のクオリティになる……ということを意味しているんじゃないかと予想します。

ツアーの最後、奈良を訪れてからずっとデザートを食べたがっていたメンバーのギルヘルメのために、旭酒造から袋いっぱいの獺祭アイスクリームのプレゼントが! さらに参加者一人ひとりに、彼らの企業にまつわる本と「獺祭 磨き二割三分」のボトルが贈呈されました。

チャーターバスにて、ツアー最後の目的地・広島県の賀茂鶴酒造へ。賀茂鶴の看板商品といえば、桜の花びらを象った金箔入りの「大吟醸 特製ゴールド賀茂鶴」。2014年、バラク・オバマ元大統領が安倍晋三首相との会食にてプレゼントされたのも「賀茂鶴」のお酒でした。キレイなビジターセンターと、来訪者一人ひとりに酒造りの工程をガイドしてくれる資料館を備えるこちらの酒造は、これまでの功績に大きな誇りを持ちつつも、新たな消費者、特に若い世代を開拓したいと考えているそうです。

ここでは広島ローカル局のニュース番組の取材を受け、私も、このすばらしい旅を提供してくれた酒造と国税庁へ感謝の気持ちを伝えることができました。夜は西条のレストランの会食に参加。マスコットキャラクターののん太と猫が、鍋の作り方をレクチャーしてくれます。この晩、特に印象に残っているのは、トイレの便座が茶色のカバーで覆われていたことと(お尻が冷えないようにするため?)と、タヌキの睾丸はタタミ8畳分まで広がるというお話。なんて勉強になる一日だったのだろう……としみじみ思います。

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一週間にわたるWSETツアー最後の二日間は、酒類総合研究所(NRIB)で過ごしました。1904年に設立された、日本で最も古く、最も小さい研究所のひとつであるNRIB。酒類の分析・研究に力を入れており、酒類業界に携わる人々へ向けた研修プログラムも提供しています。通常は一般公開されていないこともあり、ここでは極めて貴重な時間を過ごすことができました。SAKEの歴史や製造についてのセミナーを聞いたあとは、清酒専門評価者の資格を取得するための官能評価テスト(月桂冠USAの河瀬陽亮杜氏がBASTのテイスティングイベントで提供してくれたのと同じようなもの)にて、テイスティングの限界に挑戦しました。

最終日は研究所の大会議室を使用して、エデュケーター認定の最終評価が実施されました。項目は、WSET Level 3の内容に基づいた15分間の講義と、10分間のテイスティング。SAKE業界をリードする大勢の方々の前での発表はかなり緊張しましたが、オーディエンスの前に立った瞬間、自分の本領が発揮されたような手応えがありました。とっても楽しい、真のチャレンジ! うれしいことに参加者7人全員が合格、WSETのすばらしいカリキュラムをそれぞれのマーケットで提供する資格を得ることができました。ベイエリアにて、Fifth TasteのJesseと一緒にWSETのSAKEコースを開催できることにいまからワクワクしています!

こんなにもビビッドで、充実していて、クタクタになる一週間のあと、広島から新幹線で大阪へ戻り、メンバーとの別れを惜しみました。

それにしても──これまで足を踏み入れた街の中で、大阪がいちばんカッコよかったんです! ネオンがギラギラと輝き、若くてオシャレな人々が歩く夜の往来を探検しながら、道頓堀──めちゃくちゃ派手な広告と、“村”の一角を思わせる趣深い川──の中心にたどり着きました。マジで個性的! エネルギーに満ちあふれるこの場所では、みんなが楽しそうに過ごしていました。アマチュアのストリート・ミュージシャンが自分の想いを歌い上げるのを眺めていたら、まさかの「一緒に飲もう」というお誘いが……自分の気性の荒さも、彼らより10歳も年上なことも自覚していたので、遠慮しちゃったんですけど。その中のひとりは、私がサンフランシスコからやって来て、ひとりで飲み歩いていることに衝撃を受けていました。

ほかには、クレイジーなお店で軽食を買ったり、商店街を眺めたり、3ブロック歩くあいだにたこ焼きを完食したり……。最後は25ドルもしない超格安カプセルホテルのポッドの中で、人生で最高の眠りにつきました。BEST CITY EVER!(いままでの人生で最高の街!)

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翌日は京都へひとり旅。とても印象的ではありましたが、正直、ちょっとガッカリした部分もありました。メディアは、観光客にこの古都の誤ったイメージを与えているんじゃないかな……。ここで過ごした三日間はすばらしいものでしたが、どうしても観光地っぽさが付きまとっていたんです。

私はラッキーなことに、どこへ行けば昔ながらの京都のエッセンスを味わえるかをリサーチしていました。先斗町の通りをのんびり歩いていると、黒髪を結い上げた女性が──彼女が休憩中の芸者であることはすぐにわかりました。ライザ・ダルビーが人類学の博士号を獲得するため実際に芸者としての生活を体験したこのエリアは、彼女の著書『Geisha(邦題:芸者―ライザと先斗町の女たち』によって世界に不朽の名を残しています。

一保堂茶舗と京都御所を巡礼したあとは、錦市場に瞠目。旅館すぐ近くの八坂神社へ続く軽食屋の数々は、随一の迫力がありました。揚げたサツマイモを売っている若い男性との会話の中で「この南にある月桂冠の酒蔵へ行く」と伝えると、彼はあまり興味がなさそうな反応で、自分はウイスキーの方が好きだと教えてくれました。伏見のことも、そこで造られているSAKEのことも知らない彼との短く無意味なやりとりの中で、平均的な日本人は、平均的なアメリカ人と同じくらいSAKEに対して無知であるのだと知りました。なんだか変な話! SAKEを広めるためには、とてつもない努力が必要なのだと痛感します。

そんなこんなで、京都を出発する前には、伏見稲荷大社のキツネ像にしょうが入り甘酒をお供え。おキツネさまが、SAKE業界のために口添えしてくれますように!

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今回の日本旅行は総じて、その美しい文化が私の魂の一部であり、いつもそばにあるものだということを実感させてくれました。たとえ遠いアメリカにいようとも、私はその喜びとインスピレーションを常に抱いています。さらに開拓するためにもまた訪れたいと思っていますが、長年探し続けていたものを手に入れられた今回の旅は、本当に充実していました。レポートとしてまとめるのに苦戦する程度には、超・壮大な旅! この比類なき国の魅力を少しでもお見せできたならうれしいです。それではみなさん、Stay safe and healthy!