ペアリングで“Umami Heaven”へ!
──SAKEとチーズのおいしい関係【後編】

Written by Jesse Pugach
Translated by Saki Kimura
Photo by Simone Maynard

前編では、SAKEとチーズのペアリングの不思議を探りました。


SAKEとチーズの絶妙なハーモニーの正体、特にうま味の探求は、この組み合わせをさらに掘り下げるための鍵になります。SAKEとチーズがダイナミックなペアリングになる理由と、ペアリングの例については前回お話したので、今度は食品・飲料業界全体でSAKEとチーズのペアリングがどのように受け止められているのかを見てゆきましょう。料理とのペアリングは、SAKEの楽しみを倍増してくれます。業界関係者の人々からSAKEとチーズのペアリング体験談を聞くことで、この二つの相性をさらに理解でき、今後の展望が見えてくるのではないかと思います。

■チーズ商人があっと驚くSAKEの底力

2018年の夏、私はAmerican Cheese Society(アメリカチーズ協会、以下ACS)の年次カンファレンスにて、光栄なことにパネリストとして招いていただきました。このイベントは職人チーズの専門家が集まるアメリカ最大のカンファレンスで、チーズ商人、チーズ職人、インフルエンサー、メディア、その他多くの業界関係者が全国から集まり、三日間にわたって学び、試食し、ネットワーキングを行います。

このイベントの魅力のひとつは、チーズ業界のあらゆる側面を網羅するさまざまなセミナーが提供されていること。私が担当したのは、東アジアの味噌、梅、抹茶、そしてSAKEを含むさまざまな食材とチーズがどのようにペアリングし得るのかを探るセミナーでした。私はまずSAKE101(SAKEの基礎知識)を説明し、そのあと参加者にSAKEとチーズのペアリング体験をしてもらいました。アメリカのチーズ業界の関係者を対象にしたSAKEのセミナーは初めてのことでしたが、感激的なほどの反響がありました。大満足した私は、参加者それぞれの出身地や持ち場でこのセミナーが良い影響を与えることを期待しつつ、その日のセミナーを後にしました。

カンファレンスの後、私は参加者の何人かから感想を聞くことができました。ミシガン州ファーンデールにあるチーズ専門店「Mongers’ Provisions」のオーナー、Zach Berg(ザック・バーグ)は、初めはSAKEとチーズのペアリングに少し懐疑的だったと言います。

「SAKEの味は繊細だし、組み合わせるにはチーズが強すぎるのではないかと心配していました」とBerg。ところがテイスティングを進めていくうちに、その見事な相性が明らかに。彼は、SAKE業界でさえ見過ごされがちなこの一面を通じて、SAKEの特別さを理解したと言います。

「まず、SAKEのダイナミックさに驚きました。食感と塩気があり、チーズとの相性は抜群。チーズには主張の強い味わいがあるのに、SAKEがそれをしっかりと支えているのが印象的でした

チーズとドリンクのペアリングの世界にSAKEはどのように馴染んでいけるか? チーズ店として、今後どのようにSAKEへアプローチしていきたいか? これらの質問には、「繊細でほかの料理とも相性がよい点は、SAKEの大きなアドバンテージになるんじゃないでしょうか。ワインやスピリッツは、世間で言われるよりもチーズとのペアリングが難しいと感じることがよくあります」と回答。「私たちはよく、食とは旅、つまり異なる文化や地理を知るための素晴らしい方法だと話すんです。チーズの世界にSAKEが加わることは、これまでお店で話すことができなかった場所について語ることができるようになるということでもあります」。

■チーズ商人がSAKEを広めるアンバサダーに

ACSのパネルモデレーターであり今回のセミナーの立役者であったのが、カリフォルニア州ペタルマにあるCowgirl Creameryのナショナル・セールス・ディレクターでもあるRachel Perez(レイチェル・ペレス)。彼女は、ACSでSAKEを取り入れるというアイデアに興味を持った理由を話してくれました。

「SAKEはいまや全米のお店でワインやビールと並んでいるので、テイスティングにぜひ採用したいと思いました。ワインやビールとチーズのペアリングについて、ほとんどのチーズ商人は基礎的な知識を持っていますが、SAKEとのペアリングについてはまだ知らない人ばかりでしょう」とPerez。

「チーズ商人はSAKEのユニークなアンバサダーになれると思います。彼らはソムリエと同じく、それぞれの製品がこだわりを持って作られていること、そしてペアリングに一般的なガイドラインがあることを理解しています。また、一般消費者からの信頼も高く、SAKEとチーズのペアリングなんて思いつかないようなお客さんへ提案することもできる。私たち人間は常に新しいことを試したいと思っていますし、SAKEとチーズは多くの人にとってまさに新しいものだと思います」

■チーズが世界中の人々にもたらすSAKEとの出逢い

チーズのプロフェッショナルにSAKEを知ってもらい、その活動を通じてSAKEとチーズのペアリングを推進してもらう。その一方で、SAKE業界の中にもSAKEとチーズへの愛を広める活動をしている人々がいます。メーカー、輸入業者、売り手、教育者など、SAKEの専門家の多くは、自らペアリングを探求し、飲み手を教育してきました。アメリカだけでなく、世界中のSAKEのエキスパートたちが、SAKEとチーズの魔法に魅了されています。

例えば、オーストラリアのメルボルンに拠点を置くSAKEのプロモーター兼エデュケーター、Simone Maynard(シモーネ・メイナード)は、イベントでのSAKEとチーズのペアリングを定番にしています。「Sake Mistress(サケ・ミストレス)」として知られるMaynardは、彼女がSAKEとチーズの組み合わせの旅に出るきっかけとなったペアリングについて語ってくれました。

「9年ほど前、京都の『酒バー よらむ』のYoram Ofer(ヨラム・オファー)が、奇跡みたいなペアリングを見せてくれたんです。彼は私に『無手無冠(純米無濾過生原酒)』を注ぎ、テット・ドゥ・モワンヌを少しだけ添えてくれた。衝撃的でした。SAKEとチーズのマリアージュを探求しはじめたのはそれからです」

Maynardは、ペアリングが顧客や飲み手にどのように受け止められているかについても教えてくれました。

「初めてこのペアリングを試した人はほぼ全員ビックリしますね。日本で生まれたSAKEがチーズとこんなにも相性がよいなんて信じられないんでしょう。そこで乳酸について説明すると、ほとんどの人が『あー、そういうことね!』とひらめき、続いてうま味について話せば、完全に納得してくれます」

SAKEとチーズのペアリングを知ることは、飲み手にとってだけでなく、SAKE業界の人々にとっても大きな影響力を発揮します。「SAKEを人々に宣伝・啓蒙している私たちのような人間にとって、SAKEとチーズというペアリングは、より多くの人々にアプローチすることを可能にします。SAKEが日本料理以外とも相性がよいことを伝えると、いっそう温かく受け入れてもらえるんです」と、Maynard。彼女のコミュニティでSAKEとチーズのペアリングが普及しているのを見れば、その効果は一目瞭然です。

「オーストラリア人は、『クラフト』や『アルチザナル(職人的)』のカテゴリーに入るもの食べ物や飲み物をよく好みますし、プレミアムなSAKEもその仲間になるでしょう。メルボルンの多くのレストランでは、SAKEとチーズのペアリングをメニューに取り入れています」


SAKE好きがSAKEというウサギの穴に落っこちたあと、その香りや味、楽しみ方の可能性はどんどんふくらんでゆきます。SAKEとは、大好きな仲間たちやおいしい料理と一緒に楽しむもの。そしてチーズは、世界中のどこにでも存在し、普遍的に愛されている食べ物です。チーズは、これまでSAKEを飲もうとは思わなかった、あるいはSAKEと料理のペアリングを考えたことがなかった人々に、SAKEとめぐり逢う機会を提供します。SAKEとチーズの相性のよさは目ざましく、双方の業界から支持者が増えてきているのも喜ばしいことです。“Umami Heaven(うま味天国)”のSAKEとチーズの未来に期待しましょう。カンパイ!