Written by Mayuko
実は先日、興味本位でちょっとしたリサーチを敢行しました。
題して、『ボストンの人達にとってのSAKEとは?』
ローカルの人が経営する、ダウンタウン周辺の酒屋さんを、四〜五件ほど訪ねて質問をするという、非常にアナログかつシンプルかつカジュアルなリサーチでしたが、予想通りだった反応もあれば、「へえ、そうなんだ」と驚く回答もあり、中々興味深い結果に。
早速、最初の質問から見ていきたいと思います。
一番多かった答えは、こちら。
「力を注いで売り出しているものは特にないけれど、ビールとワインは人気だよ。IPAやクラフトビール、ワインであれば赤ワインとか」
なるほど。ビールとワインが二大勢力のようです。
実は、この傾向には以前から何となく気づいていて、昔ルームシェアをしていたアメリカ人二人(一人はロードアイランド州出身、もう一人はニューヨーク州出身)は、仕事終わりに必ずと言っていいほど、ビールもしくは赤ワインを飲んでいました。
また、普段お酒を飲む機会がほぼ無いわたしが友人達と時折訪れるバーでは、みんな決まってビールか蒸留酒(ウイスキーやテキーラ等)をオーダー。
さらには、六本入りのビールケースをぶら下げて街中を闊歩する人を見かけることも、さほど珍しくありません(これはアメリカ全土で見られる光景でしょうか)。
サンフランシスコ初のSAKE Brewery・Sequoia Sakeの記事で、「アメリカのビール醸造所数は世界一」という話がありましたし、カリフォルニアワインなんかは世界でも高く評価されていると耳にしますので、ビールとワインが主力商品のポジションにある、というのは納得の結果ですね。
では、次の質問に移りましょう。
多数派の回答は「置いていないねえ」。
置いていると答えてくれた、駅近のGという酒屋さん(以下、店舗名はイニシャル表記にしています)では、「置いてはいるけれど、数えるほどの種類もないし、買う人もほとんどいなくて、僕がこれまでに売ったSAKEは合計で三本くらいだよ」と言われてしまいました……。
しかし、今回ターゲットにしたローカルの酒屋さんでは、取り扱いはひょっとするとゼロかもしれない、とばかり思っていたので、置いていると答えたお店があったことは予想外でした。
酒屋W: “まあ、可もなく不可もなく、という感じかな。”
酒屋B : “多分、サッポロビールの方が人気なんじゃないかな。”
何となく消極的な答えを多く頂きました……。というより、そもそもあまり考えたことがない、と言わんばかりの雰囲気でした。
サッポロビール、街のレストランやスーパーマーケットで、確かによく見かけますね。
酒屋B: “IPAだね。”
酒屋G: “ウォッカベースのお酒や、ジンが人気。”
酒屋C: “人によるんじゃないかな。例えば、テキーラが好きな人もいるし、ウイスキーが好きな人もいるし。”
余談ですが、我が家から程近い、地元の人達もよく訪れる酒屋さんBの従業員によると、ボストンで根強い人気があるビールは
の三つだそうです。
さて、この辺りでお気付きの方もいらっしゃるかも知れませんが、ここまでSAKEの話題がほとんどありません……。
SAKEって、ボストンの人達にとってはそんなに馴染みがないものなのでしょうか?
酒屋W: “そう思うよ、色々な場所で見つけられるアルコールの一つだとは思う。だからと言って、人気があるということではないけれど。”
この酒屋さんの店主曰く、ボトルが日本語表記なので、売り手も買い手も一体何が書かれているのかサッパリ分からないのが原因の一つではないか、とのこと。
日本食レストランへ行った際、機会があればSAKEも頼むというパターンが一般的で、それ以外の場所で手に取ることは非常に稀だ、という話でした。
* * *
この結果は、大方予想していたものではありました。というのも、わたしがボストンで生活している中では、SAKEという言葉を聞くこともなければ、SAKEと書かれた看板を見かけることもないからです。
先にも述べた通り、日本のビールは一定の知名度があるように見受けられますが、ことSAKEとなると、人気度も認知度も落ちるかな、というのが正直なところです。
* * *
このミニリサーチ、ほんの好奇心から始めたことでしたが、結果を改めて見直してみて、個人的な気づきが一つ。
基本的に、日本からやってきたものって、かなり好意的に受け入れられる傾向があるように思います。その中でも、日本食の人気は絶大。代表格はお寿司とラーメンですが、ボストンにはいわゆる日本の焼肉やスイーツのお店もあって、絶対に潰れないだろうというほどに賑わっている光景を連日見かけます。
SAKEにしても、アメリカへの輸入量は年々増え、SAKEブルワリーの数自体も増加傾向にあると聞くのに、街の中で実際に目にするSAKEがとても限定的なのは、何故だろう?と、ふと思ったのです。
既に市場を築いている日本食と上手く組み合わせると、自然と街の人に馴染むかな?いや、ローカルの人達に訴えかけるためには、敢えて日本食ではない食との組み合わせを試してみるべき?
何れにしても、人気度と認知度を高めるためには、並々ならぬリサーチやマーケティングが必要で、今日明日に達成できることではないのは明らかですね。
* * *
ところで、わたしのアメリカ人の友人の一人が本記事の英語版のドラフトに目を通す機会があり、読了後、丁寧に感想をくれました。その際の彼の第一声は、「SAKEは温めて飲むこともあるし冷やして飲むこともあるし、個人的には好きだよ」。
「Mayukoが書いていることはまさにその通りで、大衆に受け入れられているかというと、それは違うかもね。」とは言われたものの、灯台下暗し、こんなに近くにSAKE好きが……と、若干の驚きと嬉しさを感じました。
好みの飲み方を探して自分なりにSAKEと向き合う友人のような人を目の当たりにした時、『いかに量的に消費されるか』ということよりも、『いかに品良く大切に消費されるか』について考えることが、心を込めて酒造りをする造り手のことを想っても、うーん、非常に大切だよな、と自分なりの結論が出た、今回のリサーチだったのでした。