第2弾・蔵人(製造職)編

Illustrated and Planned by Yoshito Fujiwara
Interviewed and Written by Saki Kimura

イラストレーター・フジワラヨシトのイラストとともに、SAKEにまつわる職業をご紹介する「SAKEのハローワーク」。第2回目は、「蔵人(製造職)」のお仕事に迫るため、6人の(元)蔵人に匿名インタビューを敢行! 大手酒造メーカー、中途入社、採用担当、元蔵人……などなど、経歴はさまざま。多様でディープなその実態を探ります。


Q1. どんな仕事をしているの?


蔵人(製造職)とは、みんなが飲むSAKEをつくるお仕事のこと。その実態は非常に多種多様です。

まず、雇用形態は通年雇用と季節雇用に分かれます。これは、もともとSAKEは寒い冬の季節に造られるものだったため(寒造り)。しかし、空調設備など科学技術の発達により、年中SAKE造りをする蔵も増えてきています。また、寒造りしか行わない場合でも、通年で雇用し、春から夏は機器のメンテナンスや商品の管理、秋から冬はSAKE造りを行うところもあるなど、その内実は蔵によって異なります。

SAKE造りには多くの工程が存在するため、蔵人の業務内容はその分多岐に分かれますが、工程ごとに担当が分かれている蔵も、ひとりの蔵人が“なんでも屋”になる蔵も存在します。また、機械での作業を行う大手酒造メーカーでは、醸造機器の準備や操作盤のコントロール、点検などを行います。

SAKE造りのほかにも業務は多く、最も重要とされるのが、掃除とメンテナンス。そのほか、たとえば原料であるお米の生産者の人々と情報交換をしてよりよい原料づくりを目指したり、蔵開きなどのイベントに関わったり、小規模な蔵では瓶詰め・ラベル貼り・営業・配達も行ったり、SAKE以外のお酒や発酵食品をつくったりする場合もあります。

しかし、すべての蔵人の仕事に共通するのは、お客さんにおいしいと喜んでもらい、SAKEを通じてお客さんを幸せにするために、味や品質を維持・向上させるということです。

Q2. どうやったらなれるの?


入社方法も十人十色。大手酒造メーカーでは一般的な企業の採用と同様、書類選考、筆記試験、グループディスカッション、面接……といったステップを踏むようですが、中小蔵は「ハローワーク求人」「知人の紹介」「SNSで社長とやりとりした」などさまざま。TwitterやFacebookなどで働き手を募集している酒蔵は少なくないため、酒造メーカーでの仕事を希望する場合は、各蔵の公式アカウントをフォローしておくことがおすすめです。

必要な資格・技能として挙げられたのは、
・普通自動車免許
・フォークリフトの免許
・電気技師や危険物取扱の資格
・基本的なパソコンのスキル

特に中小蔵では機器の修理を自分たちで行わなければならないため、機材の修理ができる人は重宝されるのだそうです。
大学の醸造学部卒という経歴や、唎酒師やSAKE DIPROMAなど、醸造や食品衛生に関する資格・知識はもちろんあるに越したことはありませんが、「勉強は入社してからでもできるため、知識やスキルはなくても大丈夫」という意見が主流でした。

「どんな人が向いていますか?」という質問に最も多かったのは、「タフな人」。酒造りはすぐに結果が出ないケースも多く、根気強くSAKEと向き合い続ける精神力・体力が求められるのです。
そのほかに求められる資質として挙がったのは:ものづくりが好き/好奇心旺盛/論理的思考能力がある/きれい好き/人前で語るのが得意/コミュニケーション能力が高い/SAKEが好き

また、採用担当を経験したことがあるという方からは、
①醸造への興味と知識
②社風との相性
③どういったことをしたいのか
④中小蔵で求められる「主体性」を備えているか
といったポイントを注視していたというコメントをいただきました。


Q4. 収入はどれくらい?

収入も、勤め先によってバラつきがあります。
初任給は20万円に満たないところも多く、資格や技能経験に応じて収入が上がるケースもあるそう。季節醸造の蔵で社員雇用となる場合、冬季34万円、夏季17万円など、季節に応じて倍ほどの差が出る場合も。また、杜氏には「杜氏手当」を支払う蔵もあります。

「5年勤務で年収400万円(大手、残業代別)」「25年勤務で年収300万(中小)」といった具体例にあるように、大手酒造メーカーを除き、昇給に関する規定・評価基準を設けていないところも多いとのこと。組合によって日給などに基準は存在しますが、斜陽産業とあって厳しい状況が続いているため、基準どおりにいかないところも少なくありません。


Q5. 蔵人(製造職)
の未来はどうなる?


SAKE業界の国内市場は縮小傾向にありますが、個々で見れば売上が上昇している蔵も存在します。そうした蔵に共通して言えるのは、市場のニーズを抑えながら、品質の高いものを提供し続けているということです。
そのため、これからの蔵人(製造職)に求められるのは、どんなニーズ(味)にも応えられるような技術。自分たちのSAKEの飲み手が「誰」なのか、その飲み手が求めていることはなんなのかを理解し、それに応じた商品設計・製造について考える視野を持ち合わせていることです。

また、厳しい状況柄、不要な工程や資材の削減・変更、資材メーカーへの交渉により、コストを削減できるかが重視される現場も。
そのほか、SNSで情報を発信したり、イベントなどで飲み手と積極的にコミュニケーションしたりと、マーケティング能力が高い人材はますます重宝される時代になってゆくといえるでしょう。海外進出を志す蔵においては、英語をはじめとした外国語の能力も必要となっていきます。


味わいとともに、ますます多様化するSAKE造りの現場。多様な選択肢があるからこそ、「自分はどうしたいのか」「したいことはどの蔵でできるのか」を考えながら、進路を考えてみることが大切です。SAKEの未来の中心にいるのは、造り手のみなさんです。SAKEというカルチャーの基盤をなす造り手を目指す人々へのエールとともに、私たちの愛するSAKEをつくり出す方々の日々の奮闘に心からの敬意を送ります。