SAKE DAY 2019レポート
〜酒粕ドリンクを通じて見えた日本とアメリカの違い〜

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Written by Hanako

「アメリカでSAKEが飲む人が増えている」

約1年前に教えてもらった、遠い国での出来事。それを実際に目の当たりにすることになるなんて、当時は思ってもみませんでした。




私は福岡県在住のフリーの管理栄養士です。自家製の調味料を作ることが好きで、「発酵愛好家」として教室を開き、発酵にまつわることや、調味料作りの楽しさを伝える仕事もしています。SAKEやワイン、ビールといった醸造酒が好きで、それらとともに食事をすることが好きなだけだった私が、メンバーとの出会いをきっかけに、1年前からSakeTips!にかかわることになりました。

私はもともと海外旅行が好きで、欧米を中心にこれまで10カ国ほどを旅してきました。味噌汁をはじめ、和食は世界でも有名。「発酵」×「海外旅行」という好きなもの同士を掛け合わせ、世界の人たちと一緒に楽しめる仕事をすることは、私の密かな夢でした。現地のSAKE文化を知りたい好奇心と、せっかくのチャンスを活かしたいという野心から渡米しましたが、予想以上の収穫を得ることができました。

酒粕シェイクと酒粕ティー

今回参加したイベント「SAKE DAY 2019」のために作成したレシピは2つ。「酒粕シェイク」と「酒粕ティー」です。

酒粕の用途としては粕汁や甘酒がよく知られていると思いますが、正直なところ日本でもメジャーな食材ではありません。とはいえ、今回のイベントは酒粕の素晴らしさをアピールする絶好のチャンス。身近に感じてもらうために、「世界どこでも手に入る材料で、簡単に作れる飲みもの」が今回のテーマでした。コーヒー、ココア、抹茶などいろんな味を試した結果、最もおいしかった二つのドリンクを振る舞いました。

酒粕ティーの材料は、紅茶、きび砂糖、酒粕とシンプルですが、ミルクティーのような味わいで、乳製品が飲めない方でも試していただけます。
酒粕シェイクは、豆乳、酒粕、ジャムのみ。ミックスするととろみがつき、ヨーグルトのような食感も楽しめます。

日本では何度か試作をしていましたが、材料も現地調達ですし、何百人分の量を作らなければなりません。いきなりサンフランシスコに飛んで、そんなことができるのかと不安な面ももちろんありましたが、それ以上に楽しみが勝っていました。

サンフランシスコで酒粕がくれたもの

さて、当日。

事前に酒造会社の方をはじめとする日本人には試飲してもらい、「おいしい」という感想をいただいていました。なので、「そこまで悪くないだろう……」くらいに思っていたのですが、開始早々飲んでくれたお客さんの反応はイマイチ。
やはり、アメリカの人々に酒粕は受け入れられないのか……。他のベンダーのテーブルでSAKEを飲んで盛り上がっている来場者を見ながら、少し落ち込んでしまいました。

すると、現地在住の日本人の方から、「アメリカ人はもっと味がはっきりとわかるものにしないといけない。ブルーベリーが入っているなら、それを認識させる必要がある」というアドバイスが。日本人はヘルシーで優しめな味わいを好みますが、アメリカの人々は違うのです。そこで早速、シェイクに、ブルーベリージャムをさらに投入。果肉感、甘さをアップさせたところ、急に「おいしい!」と声に出してくれる方が増えてきました。

その後もいろいろなお客さんが飲みに来ては、感想を伝えてくれました。ティーとシェイクのどちらが人気というわけでもなく、一方は苦手で、もう一方は抜群においしいという極端な評価が多く、友人同士でも意見が分かれるなど、ほぼ五分五分だったように感じます。

アメリカ人は、素直に、好みをはっきりと表情で表してくれます。
「どうしたらいいかアドバイスがほしい」と伝えると、きちんと回答してくれる。おいしい時は全力で表現してくれる。当日のレポートにも書かれていますが、「こんなうれしいコメントもらえるの?」と驚くほどのリアクションばかりで、今後の取り組みに対してのやる気をもらうことができました。

目の前でおいしいと言ってもらえること。自分の作ったものを口にして、笑顔になってもらえること。作る側にとって、これ以上うれしいことはありません。何度も何度もおかわりに来てくれた人、このドリンクが売ってないことにショックを受けてくれた人、酒粕というものがあるんだと興味を持ってくれた人……。一人ひとりの顔を思い出すと、今でも温かい感情がこみ上げてきます。英語があまり話せないので、自分の言葉できちんと伝えることができなかったのはとても悔しいけれど、言葉を超えて伝わる表現をしてくれることへのありがたさも感じました。

昨今、オンライン上で完結するコミュニケーションが多い中で、こうした人との生のやりとりこそが、「サンフランシスコに来てよかった」と感じるいちばんの理由であり、私に自信を与えてくれたものでした。

SAKE DAYから、SAKEと暮らしを考える

SAKE DAYの会場にいた人々のSAKEを選ぶ姿は真剣そのもの。そんな姿を見ながら、ただ飲み、味わうだけでなく、SAKEを暮らしの中でどう活かすのか、自分の暮らしにフィットしているのか、手にした後のシチュエーションまで考えているのかもしれない、と想像しました。飲めれば、酔えれば何でもよいわけではなく、いかに生活を楽しく豊かにするものか。私が理想とするアルコールの楽しみ方を目の当たりにしたようで、うれしくもありました。

とはいえ、国や環境によって味の感じ方が違うこと、酒粕の認知度が低いことは身をもって感じましたし、伝えたくても伝えきれなかったことはたくさんあります。情報があふれ、いつでも手に入るこの時代に、「あたりまえ」と思い込んでいても、知られていないことはまだまだたくさんある。ここで学んだことを生かしながら、今後も酒粕についてどんどん発信していきたいと、決意を新たにした、そんなイベントでした。