Written by Saki Kimura
「忠臣蔵」という日本の物語を知っていますか? 「赤穂浪士」と呼ばれる47人のsamuraiが主君の無念を晴らすストーリーで、それを元にたくさんの映画や舞台が誕生している人気作品です。この中に登場する侍のひとりが、赤垣源蔵。大のお酒好きである彼がいつも持ち歩いていたと言われる丸い寸胴の瓶は、「源蔵とっくり」という名で呼ばれています。
このトラディショナルな「源蔵とっくり」、実は、みなさんの家の近くのスーパーマーケットでも見つけることができます。その名も、「Black & Gold」。アメリカで30年の歴史を持つ米国月桂冠の米国法人設立以前からのロングセラーで、ロサンゼルスのワイン・コンペティションにて、日本の酒造も参加する中、Best in Classを獲得したことも。本国の日本ではもう手に入らない、クラシックなタイプの商品です。
真っ黒なボトルの気になる中身は、同社の看板商品である純米酒「Traditional」と、吟醸クラスのプレミアム酒「Haiku」をブレンドしたもの。グラスに注ぐと、リンゴやナシを思わせるフルーティな香りがしますが、味わいは芳醇。相容れない組み合わせのようにも思えるアロマと味わいが、見事なバランスで共存しています。
今回、このSAKEの”最高においしい飲み方”を見つけるために、実験をしてみました。用意したのは、
①鍋と温度計
②いろいろな形をしたグラス
③酢、塩、醤油などの調味料
の3セット。その結果としてわかったことを、以下にレポートしたいと思います。
ずばり、このSAKEの最もおいしい飲み方は、温めて飲むこと。特に、100〜110°F(約40〜45℃)の「ぬる燗」と呼ばれる温度帯で、おいしさはピークを迎えます。まるでクリームのような、やわらかく厚みのあるテクスチャーに、煎ったナッツのようにふくよかな甘みとコク。そんなリッチな味わいが、最後はピリピリとした心地よい余韻を残しながら引いてゆきます。
温めるときは、お湯を沸かした鍋の中にSAKEを注いだ容器を入れ、温度計で計りながらじっくりと温めるのがオススメ。電子レンジのようにムラを作らず、SAKE本来の味わいを損ねることもありません。
もちろん、低い温度で飲んでも十分おいしいのですが、温めて飲むときよりもドライでスパイシーなフィニッシュが際立ちます。ワイングラスやストレートなグラスで飲むと、ピリピリとした刺激や苦味が気になってしまう人もいるかもしれません。
そんな人は、口が広い逆三角形型のカクテルグラスをお試しあれ。香り、味とともにやわらかさが増し、ピリピリ感や苦味はほとんど感じられなくなります。このSAKEの原材料であるシエラネバダの雪どけ水を思わせる、まろやかなテクスチャーが舌の上を心地よく転がってゆきます。
そのほかのグラスしか持っていない人もご安心を。このSAKEには、まだまだおいしい飲み方があるんです。それは、「料理と合わせる」こと。
わたしはいつもペアリングを考えるときに、「塩やマスタードなどの調味料を舐めてからSAKEを口に含む」という方法で実験をしています。今回の「Black & Gold」は、醤油と合わせたときに口の中でふくらむ旨味が絶品! これはつまり、醤油で味付けする寿司や刺身などの日本の伝統料理と相性抜群ということです。
そのほか、酢と合わせてもSAKEのやわらかさが引き立ち、旨味がアップしました。サラダや酢の物など、酸っぱい味付けの料理にもぜひ合わせてみてください。
今から1世紀以上前、日本で初めて、防腐剤を使わないSAKEを開発した月桂冠。その技術開発力はめざましく、現在の日本の日本酒業界では、月桂冠なくしては存在しなかった技術が多数普及しています。
そして米国月桂冠を率いる若干31歳の若手杜氏、河瀬陽亮さんは、同社に引き継がれる伝統はそのまま、より質を高め、酒本来の香り・味わいを追求する人物。「Black & Gold」は、彼のブレンダーとしてのテクニックが光る一本でもあります。
丸いシンプルなボトルの中に、歴史と技術、多彩なおいしさの物語を秘めた米国月桂冠「Black & Gold」。いろいろな飲み方を試しながら、その物語に思いを馳せてみてください。
※この文章は、2019年9月にサンフランシスコで行われたイベント「SAKE DAY 2019」のパンフレットに掲載したもののフルバージョンです。Black & Goldは米国月桂冠がアメリカで生産している商品で、このオリジナル記事もまたアメリカの読者を想定して書かれています。