SAKEを“育てる”

当店の一般営業やコラボイベントにてたまに聞かれることのひとつに、「なんでこの味になったの?」「あれ、このお酒ってこんな味だったっけ?」などの質問がある。

毎回、よく言うのが、「うちのお酒は他の飲食店さんや酒屋さんがお出ししてるのとは味が違いますよ」。別に特別に鎮守の森専用に蔵元さんに仕込んでもらってるわけではございません(一応、そんなお酒もございますが)。

蔵元さん方が仕上げた、発売したお酒を普通に買っています。

ただ、そこからが若干違うのかな?

まずはどうやって仕入れるか。

蔵から直の方がいいか、Aという酒屋から買うか、Bという酒屋から買うか、Cという酒屋から買うか、あとは間に問屋が入っているものを入れるか、から始まります。

「え? どこで買ったって同じ銘柄の同じアイテムだから一緒でしょ?」と思われますよね。

たしかに蔵から出荷された段階ではほぼ一緒でしょう。

ただA、B、Cの酒屋さんの冷蔵庫、保存場所の温度は一緒でしょうか? そのお酒が保管されてた場所の照明は? 周りに鉄道などの振動はないか? 音楽等はかけてないか?

そこも考えて注文する方法、酒屋を選びます。

そのあとにその蔵や酒屋さんが配達なのか、配送なのか、配送業者はヤマトなのか佐川なのか郵パックなのか、他なのか、などでも変わってきます。

各、宅配業者の荷台の振動率などもあり、実は蔵から出荷された段階で味わいに若干の味わいの差が出てきます。

お酒が届いたらちょっと寝かせ、その日のうちに各一本は開栓します。必ず試飲して味と香りを確認します。

その時の自分の頭の中で感じたこと思ったことをメモに書きます。それが言葉なのか、記号なのか、イラストなのか毎回バラバラです。

ああ、これは燗酒にした方が本来のポテンシャルだなとか、今すぐ出さないとやばいなとか色々思います。

ただその時に、あと3年寝かせたら燗がさらに旨いな、あの食材と合うかな、いやこのお酒は燗酒が美味しくて冷酒だと苦くて硬くて飲みづらい。ならばもし来週土曜日ご予約のお客様から「このお酒を冷酒で飲みたい」と言われたらどうする? と考えます。

だったら冷酒で燗酒にした時の絶頂の味に近づけるしかない……となるわけです。

ここからが私が常々よく言う

「SAKEを育てる」

の始まりです。

このお酒を何℃で何日、そのあと何℃に移し変えて3日、丸一日は14℃で放置して次の日にマイナス4℃で一気に酒質を締めよう……などなどの計画が始まります。

すべてのお酒に対してこんなことばっかりやっているから、お客様から「あれ?こんな味だったっけ?」「あ、これだったら冷酒で飲める!」などといった意見が聞こえるのです。

冷酒で出すか常温で出すか燗酒で出すか? の前にいろんなことをやっているので、うちにしかない味わいが多いのです。

お酒は蔵元が自信をもって出せるから発売に踏み切るわけで、その時点で造り手から見たお酒は完成なんです。

それをみんなが買って飲む。

ただ私は、「飲食店で飲んだって自分で買って飲んだって同じ味だったら、安く済ませるように自分で買うよな」と考えてしまうんです。

わざわざ鎮守の森でSAKEを飲みたい理由がどこにある?

そう考えたら自分にしか出せない味を造りたいなと。

蔵元・杜氏・蔵人→造りのプロ

酒販店→売り手のプロ

飲食店→提供のプロ

この「提供」を普通に提供と考えるか、その店各自の“ほどこし”の提供かで違ってくるなと。

そんなわけで、当店にはまだ飲みごろを待っているお酒たちもたくさんあるわけです。

同じお酒でも6本購入し全部違う設計図で管理する場合もあります。

色んな可能性を逃がさないためです。

そしてお酒は造り手の想いとお酒本来のポテンシャルがあります。それがどこを向いているのか、それにも寄り添わなければいけない。

正直、かなり難しいです。

でもこれはお酒単体だけの話であって、この後に何の食材、どんな料理、いつ必要なのか? なども考えなければいけません。

鎮守の森営業だけの場合はまだいいのですがコラボイベントの場合、コラボ先のシェフ達の哲学、狙いなどがあるわけで、どんな味をお客様に届けたいのか? 食べてもらいたいのか? も意識しなければいけません。

いくらあの料理にはこのお酒が合うと思っても相手シェフはそこの味わいを狙ってない場合もあります。

だから毎回格闘です。

アニメーションのように、手前に主役となる人物(料理)があり、その感情などを表現するための2枚目のセル画に手前背景(香り、音、食感)があり、同時に周りにはソースという雨が降ってきたり……。

じゃあ自分は何をすればいいんだろう? と考えた時に、自分は”背景”を担当したいなと。

三枚重ねのセル画じゃないけど、このシェフの哲学が詰まった、そしてこの料理が出来た歴史をいかに受けとめる背景を描くか。スタジオジブリの男鹿さんタッチのリアルなタッチの酒質なのか? いや、あのシェフのこの料理はなんか懐かしい味だぞ! なんだっけ~? この感覚……さらにうまく演出するノスタルジックな味わい……そうだ、紡木たくの背景のようなタッチでいこう!

などと、意味不明なところに意識がいってしまうのです。

と書いてる時点からすでに文章は流れ、意識と視点も定まらなくなってきてます。

結局、この意味不明な存在との格闘なんでしょうね。その時のために必要なのが、どんな場合でも対応できるお酒たちなんです。

そのため、鎮守の森にはお酒がたっぷりと用意されているのです。

味わいは、“鎮守の森色”に染まったお酒が。

 

※この記事は、「animism bar 鎮守の森」の会員限定Facebookページに投稿された内容を若干調整のうえ掲載しています。