Brewery Report:
歴史! 癒し! 旨し! 酒飲みのテーマパーク石川酒造

Written by Yukiko Nagatomi

皆さん、「酒造」というと、何を思い浮かべるでしょうか?

私はこれまで5つの蔵を見学したことがありますが、記憶に残っているのは、試飲して気に入ったお酒のことだけかもしれません。蔵の歴史やお酒の作り方の説明もしてもらいましたが、あまり覚えていないというのが正直なところ。

ところが、今回訪れた東京都福生市・石川酒造は違いました。石川酒造を訪れて1ヶ月たった今も、そこで試したお酒の銘柄だけに留まらない歴史や建物の情景など、石川酒造という“空間”をまるごと鮮明に記憶しています。

お酒が大好きな人も、あまり飲めないという人も関係ありません。誰もが癒され、楽しめるエンターテイメントな空間がそこにはあります。

今回は、1863年設立から155年の歴史の中で進化し続ける石川酒造をご紹介します。

別世界への入り口

最寄駅のJR拝島駅を降り、地図をもとに歩いていくと、そこはなんと住宅街。「こんなところに酒蔵なんてあるんだろうか?」と少し不安になるような光景ですが、間もなく立派な蔵屋敷が見えてきます。

門ををくぐると、先ほどまで歩いてきた住宅街とはまったくの別世界。

まずは敷地の広さ、立派な白壁の蔵に圧倒されました。さらに中に入ると、目の前に本蔵、脇には地下150mから汲み上げた天然水と樹齢400年、米と水の神様を祀る「夫婦けやき」が構えています。

前述したように、私はこれまで、主に試飲を楽しみにしての酒造見学しかしたことがありませんでした。また、訪れた酒造も工場や倉庫のような雰囲気の場所ばかりで、全体の一部しか案内してもらえませんでした。

ところが石川酒造は、まるで、蔵を含む敷地全体が、神聖な空気で包まれているよう。明治時代にタイムスリップしたような、息を呑む空気の変わり具合には「すごい」としか言葉が出てきませんでした。

地ビール醸造

ここで造っているのは、日本酒だけではありません。実は、ビール醸造も手がけているのです。

石川酒造のビールには明治時代からの歴史がありましたが、一時期に醸造を停止。1998年、111年の時を超えて復活しました。
敷地内には戦争を乗り越えて残存する、最古のビール釜があり、その歴史を物語っています。

現在の主要商品は、無濾過の生ビール。
私は無濾過のものが多いクラフトビールが大好きなので、嬉しいポイントです。

この日は、多摩地域最古のビールを復刻した「TOYODA BEER」を飲みました。
これは、福生市のご近所である東京都・日野市の地域活性プロジェクトの一環で、日野産大麦を100%使用し、石川酒造で醸造を行ったビールです。日本のクラフトビールは、ほとんどが外国産大麦を使用しているため、国産大麦で作るビールは希少。琥珀がかった色から想像するよりも爽やかな味わいで、飲み心地も良く、麦のコクを感じました。

人と人とのコミュニティであり続ける

敷地内には「福生のビール小屋」というレストランがあり、生地から仕込み、釜で焼き上げるピッツァや、地元福生産ソーセージ盛り合わせ、季節の食材を使用したパスタなど、本格的な料理とともに石川酒造のお酒が楽しめます。

この日、店内はたくさんの人で賑わっており、食事とお酒を楽しんでいる姿が見られました。家族連れも多いので、まるでテーマパークのレストランのような光景です。

また、ビール工房の2階は多目的ホールとして、ライブや角打ちなどのイベントも開催しています。新年会、忘年会、法事、披露宴など、地域へも開放しているそうです。

案内の橋本さんは「商売上手でしょう?」と笑いを誘っていましたが、地域の人に寄り添い、集える場所を提供するという姿勢には、伝統を大切にしながらも、その時々に必要なものを取り入れていくという、商売を超えた信念を感じました。

お酒に合う料理の提案をする。一緒に分かち合う仲間や家族と集う場所をつくる。酒造りと販売だけではなく、「お酒を楽しむ場」をつくることも酒造の役目と考える石川酒造の真髄に触れたような気がしました。

古きを残し進化を続ける

石川酒造は、伝統的な酒造らしく、精米、仕込み、熟成を全て敷地内で行っています。

一方で、公式HP以外にも、FacebookInstagramTwitterというSNSを積極的に運用しており、情報の発信や更新にも手抜きはありません。HPを見ていただけるとわかりますが、新商品の宣伝から、酒造りの舞台裏なども見ることができます。

SNSを利用した企画に、「#ムギぽん」があります。
これは、ビールと日本酒のコラボリキュールで、まさに両方を醸造する石川酒造を象徴する表すようなお酒です。
限定好き、コラボ好き、ビールも日本酒も好きな私は一目で購入を決めました。

まずはロックで飲みました。しっかりしたアルコールの香りがしますが、飲むと甘くてキャラメルのカルテルのようです!カクテルはほとんど飲まない私ですが、複雑な深い味わいとスッキリした後味が気に入り、一口飲むと、また一口と飲み進めてしまいました。
敷地内のレストランでは、ワインやソフトドリンクと割ったメニューもあったので、今度家で試してみたいと思います。

石川酒造は「美味しい割り方を発見したら“#ムギぽん”でSNSへ」というキャンペーンを行い、SNSでの発信を意識しています。
昔ながらの蔵の中で、代々続く蔵人の知恵を活かしながら真摯にお酒に向き合う一方で、日々進歩する酒造りの技術を取り入れながら、SNSを積極的に活用して飲み手にアプローチするなど、企業努力を感じました。

元蔵人橋本さんのトークにも注目

見学の間、芸人ばりのおもしろ話術で、石川酒造の裏も表も話してくださった元蔵人橋本さん。
半纏を翻し、郷ひろみの「ごうですっ!」からトレンディエンジェルの「斎藤さんだぞ!」まで披露してくれるのは、伝統と最新の流行を大切にする酒造の案内人ならでは!? 老若男女まで掴みは抜群です。
タンクに書かれた「一毒」の意味や、蔵人時代のタンク掃除のヒヤリ話、前掛けや半纏の蔵人活用法などなど、小話も楽しませていただきました。
気になるエピソードは、ぜひ石川酒造で直接聞いてみてください。


東京駅・新宿駅から電車で約1時間!
そこには、積み重ねられた歴史と新しい風が吹き抜ける、癒しのテーマパークがありました。

私が今回参加した蔵見学は、毎日1名から対応しており、事前予約をすればで英語ガイドも可能です。
家族や友人との旅行はもちろん、ひとり旅にもぴったり。
みなさんも、石川酒造へ非日常感を味わいに遊びにきてみませんか?