AyaはSAKEを好きになれるのか!? プロジェクト
Ep.3 レンジと湯煎 燗酒を飲み比べてみた

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Written by Aya

私は味に無頓着だ。
そのせいかはわからないが、料理が嫌い。
「ほんの一手間でおいしくなる」と言われてもその「おいしさ」は私にはわからないほど小さな違いかもしれないし、それくらいの微々たる違いなら迷わず「手間をかけないこと」を選択したい。

燗酒の記事を書くことに決めた当初、電子レンジを使って燗酒を作った私に対して「もっとおいしい飲み方があるんですよ!」と訴えた、SakeTips!ディレクター・Sakiさん
その方法とは、「湯燗」といって、SAKEを入れた容器を湯煎するという方法だ。

正直、彼女の言葉に私は内心反発していた。
私はSAKE初心者で、SAKEの味の違いを理解する自信がないし、できれば楽ができるほうを優先したい。

彼女の言うとおり、レンジと湯煎で、私にわかるほどの違いなんてあるのだろうか?
せっかくなので、比べてみることにしました。


今回飲み比べに使ったSAKEは二種類。
高砂酒造の「清酒 髙砂 純米酒 ずZOOっと旭山」(旭山動物園の公認を受けた動物の可愛いカップ。北海道土産にオススメ!)と宝酒造の「松竹梅 天」
レンジと湯煎で同じ温度に温め、飲み比べてみる。

湯煎の方法は鍋にお湯を沸かし、火を止めた後にSAKEが入った容器を入れて希望の温度になるまで待つだけ(このために燗酒用の温度計も買った)。
待つと言ってもそんなに時間はかからない。せいぜい2、3分だ。

それでは試合開始。


* * *

●第一試合 「清酒 髙砂 純米酒 ずZOOっと旭山」


まずはレンジで40度前後に温める。
雑味が強い。渋みや刺激があり、味がちらかっている。口に含んだ瞬間のパンチはあるが、その後はほぼ味を感じず、ただ喉を流れていく。

次に湯煎で同じ温度にしてみた。
なんと、雑味を全く感じず、柔らかい味になった。人に例えるなら、ツンツンして刺々しかった人がいきなり丸くなったような印象。レンジのときに気になった、ぴりっとした辛みがない。レンジに比べずいぶんあっさりとしたが、後味はしっかりと残り、その余韻まで十分に楽しめる。

これは劇的ビフォーアフター。
第一試合、湯煎の勝ち。

●第二試合 「松竹梅 天」


第一試合と同じく、まずはレンジで40度前後に温める。
まろやかで飲みやすい。「ずZOOっと旭山」を飲んだときのような雑味もない。これは十分おいしい。わざわざ湯煎する必要ないんじゃないの……? と、つい楽をしたい気持ちが湧いてくる。

しかし、ここは踏ん張りどころ。湯煎で同じ温度にしてみた。
ひと口含んで、湯煎してよかった、と感じた。やはり、レンジとは明らかに味が変わる。レンジで温めたときより複雑で、深みのある味わい。この複雑な味の中に、丁寧に造られたSAKEの物語を感じる。その奥にとてつもなく壮大なSAKEの世界が広がっているような気がして、この世界をもっと知りたい、もっと奥に入ってみたいという好奇心を刺激される。

第二試合、湯煎の勝ち。
いずれのSAKEも湯煎の勝ちでこの勝負は幕を閉じた。


* * *


Sakiさんの言うとおり、レンジと湯煎では、明らかに味が違った。味に鈍感な私でもわかるくらいだから、きっと読者の皆さんが試しても絶対に味の変化がわかるだろう。
「松竹梅 天」はレンジでも十分においしかった。他にも、レンジ燗でおいしく飲めるSAKEはたくさんあるだろう。でも、そのSAKEは湯煎したらもっとおいしくなるのかもしれない。だからもしあなたが今レンジ燗で満足しているなら、一度だまされたと思って湯煎してみてほしい。

もうひとつ勉強になったのは、湯煎での燗は思ったほど手間はかからないということだ。これだけ味が違うなら、怠け者の私でも迷わず湯煎を選ぶ。温めるために若干手間がかかっても、得られるおいしさには手間をかける価値がある。

最後に湯煎するときのポイントをふたつ。お湯にSAKEが入った容器を入れた直後は温度の上がり方がゆっくりだが、途中からそれが加速する。希望の温度になった後にお湯から出すと、出したあとも余熱で温度が上がり続けてしまう。だから、希望の温度になる前に少し早めに出すのがポイントだ。
そして言うまでもないが、お湯に入れた容器は本当に熱いので火傷に気をつけてほしい。私は焦って容器をお湯から出す際に右手の中指をやけどしたので。


* * *


ところでこの勝負を行いながら、私が燗酒を作るときにレンジで温めることに執着していた理由を思い出した。

15年ほど前、私はホテルの和食レストランで働いていた。そのホテルは有名で、日本だけでなく世界にも知られている大きなホテルだ。
実はこのレストランで燗酒を出すときは、レンジで温めていたのだ。わざわざ「失礼します」と声をかけ厨房に入り、奥にあるレンジを借りたのでよく覚えている。
この「一流ホテルのレストランでさえレンジで燗をしている」という実体験から、Sakiさんの提案に強い反発を覚えてしまったのだ。

15年も前の話だし、今はSAKEの扱い方にこだわるレストランも増えているから、状況は変わっているのかもしれない。
今回、私がその驚くべきおいしさに目覚めたように、SAKE初心者や外国人旅行者の人々が湯燗の魅力を体験できるようなお店が増えてくれることを願っている。