AyaはSAKEを好きになれるのか!? プロジェクト
Ep.1 停電の夜でも心に明かりを──小西酒造「白雪純米吟醸赤富士」

Written by Aya

SAKEビギナーのAyaです。SAKEは興味があるのに味が苦手で飲めない、近くて遠い存在。

家族や友人がおいしそうにSAKEを飲んでいるのに、自分だけ仲間に入れないという場面を経験するたびにSAKEへの憧れは募ります。

『AyaはSAKEを好きになれるのか!?』

この連載を通していろいろな銘柄や飲み方、料理との組み合わせを検証しながら、SAKEの魅力を知っていきたいと思っています。

 

今回飲んでみたのは、兵庫県・小西酒造「白雪 純米吟醸 赤富士」。赤と青の背景に、金色の文字が目立つパッケージです。

手に取ったきっかけは、近くのスーパーで敬老の日のおすすめ品として陳列されていたのが目に留まったこと。「赤富士」という名前と、赤い富士山の絵が印象的なパッケージに、強く魅かれました。いわゆるジャケ買いです。

公式ホームページ によると、赤富士はその名称から、縁起が良く「ハレの日にふさわしい」SAKEとされているそうです。

 

2018年9月8日 ろうそくの灯りの下、自宅で飲んだ「白雪 純米吟醸 赤富士」の味を、私は一生忘れません。

 

その2日前、2018年9月6日未明に胆振東部地震が発生しました。激しい揺れを感じたものの、食器が1枚割れた以外に大きな被害がなかったのは、不幸中の幸いでした。

震災の影響で道全域で停電が発生し、北海道は闇に包まれました。私が住んでいる地域での停電は、その後40時間以上続くことになります。

私は自宅で散乱したものを片付け、この後始まるという断水に備えて、浴槽や鍋に水を溜めました。ガスは使えたため、鍋でお米を炊きお昼ごはんはチャーハン。ラジオは持っていなかったので、車についているテレビで情報収集しました。

食料が足りるか心配で、午後は車で買い物に行くことに。自宅を出てすぐ、信号が消えているのに気づきました。

コンビニやスーパーからは品物がなくなり、ガソリンスタンドには長蛇の列。いつもの場所なのに、いつもと違う光景。何の変哲もない平和な日常は、こんなにもろく、すぐに崩れ去っていくものなのだと知りました。

時期は夏の終わり。日が沈む時間はだんだんと早くなっている頃です。18時には暗くなるので、その前に夕飯をすませ、日没とともに家族全員で就寝。

断水は夜の間に終わっていました。

 

地震発生から2日目。

余震が続いていて、ときどき大きく揺れます。テレビでは「1週間は本震に注意を」と呼びかけていて、予断を許さない状況。それでもこの状況に慣れてきたのか、腹をくくったのか、前日よりは気持ちに余裕があります。

「いつまでも暗い気持ちで、予想できない明日を心配していても仕方ない。この状況の中でも楽しめることはないかな」

前向きに考えようという気持ちが生まれていました。

 

そのとき、ふいに「お酒が飲みたい」と思ったのです。

普段ビールやウィスキーなどを飲む私は、「お酒は冷たくして飲むもの」と思っています。しかし氷がありません。地震が起きたとき、クーラーボックスに詰めた氷はもう溶けてしまいました。スーパーやコンビニに行ってみましたが、氷を販売している店舗はありません。きっとこの停電の影響で溶けてしまったのでしょう。

どんなお酒も、ぬるいまま飲んでもおいしくない……どうにかおいしく飲める方法はないかと探していたところ、常温でも飲めるお酒が家にあるのを思い出しました。

それが兵庫県・小西酒造の「白雪 純米吟醸 赤富士」です。SakeTips!で記事を書くために、いつか飲もうと買っておいたもの。

この日は曇りで暗くなるのも早かったので、17時に夕飯を食べました。電気はつかないので、ろうそくを灯して薄暗い中で、「白雪 純米吟醸 赤富士」をおともに。

のどごしが良くすっきりとした味わいが好きなので、いつもは「冷酒」一択ですが、この日は選択の余地なく「冷や(常温)」でいただきました。

SAKEはお米で作られているため、どんな商品でも必ず「甘み」があるものだと分かっています。「冷酒」ならすっきり飲めるSAKEも、冷やだとその甘みは際立って感じられるもの。

その甘さを覚悟して飲んだのに、予想とかけ離れた味に驚きました。

「冷やでもすっきり飲めるお酒があるんだ!」

本震におびえ、食料の心配をし、いつ終わるとも分からない停電の中、「白雪 純米吟醸 赤富士」を飲んでいるときだけは、自分の置かれた状況を忘れ、ただSAKEを楽しむことができました。

冷えているSAKEは常温に戻ってくると、甘みが強くなります。そのため、ぬるくならないように、いつも急いで飲んでいましたが、「白雪 純米吟醸 赤富士」は常温でもほとんど甘みを感じないので、急ぐ必要がありません。自分のペースでゆったりと飲めました。

停電はSAKEを飲んでから数時間後に解消されました。

 

あの震災から3カ月がたった今でも、「白雪 純米吟醸 赤富士」の最初の一口の味を覚えています。

あの味を思い出そうとすると、記憶の引き出しが開くように、予想を上回るおいしさに出会えた喜びや、SAKEを飲むことで得られる安らぎなど、当時の感情も一緒に思い起こされるのです。

近所のスーパーで何気なく買ったSAKEは、あのときの思いを引き出す、特別な意味を持つものになりました。

被害の規模にもよりますが、被災したからといって、一日中暗い気分で過ごす必要はありません。そんなときこそ、心が明るくなる何かが必要。SAKEはその役割を果たしてくれました。

たった数日ではありますが被災を経験した私から言えることがあるとすれば、「防災セットの中にSAKEを入れておくことをおすすめする」ということです。